恩田陸の小説“常野物語”シリーズ「光の帝国」「蒲公英草紙」「エンド・ゲーム」3作品
シリーズといいながら 3作品のトーンが違い過ぎて驚く
恩田陸の小説はちゃんと読んだことがなかった。
以前から興味はあったので“常野物語”シリーズの3作品をまとめて読んでみた。
「光の帝国 常野物語」(1997年10月)
「蒲公英草紙 常野物語」(2005年6月)
「エンド・ゲーム 常野物語」(2005年12月)
という発行順になっている。
常人にない特別な力をもつ一族をめぐる連作集、ということで、
読む前は、自分の好みのところもあるのではないかと期待していたのだが、予想とは違った。
また、文章における言葉遣い、リズムがあまり自分には合わなかった感がある。
物語の筋や世界の描き方、作者の世界観には引かれるものはあったが、
読んでいて、時々意識が字面から離れてしまった。
私は、夢中になっている小説の場合だと紙面の文字を追っていくことが快感で、1文字1文字を食い入るように読み進めながら、物語の世界に没頭することがある。
だが、こちらの小説の場合、時々意識が文字から離れ、読むのが面倒で飛ばして読みたくなってきてしまうことが時々あった。
同じタイプの話でもあるアーシュラ・ル・グインの「西のはての年代記」シリーズはこちらの何倍もの集中力で読んでいた感がある。
- 作者: アーシュラ・K.ル=グウィン,Ursula K. Le Guin,谷垣暁美
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2006/06/21
- メディア: 単行本
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この作家の文章はどちらかといえば滑らかではなく、ゴツゴツした途切れ途切れの文章という読後感を抱いた。
形容詞の使い方、センテンスのリズム、シーンの切り返しも、私はあまり心地よくなかった。
読んでいてどうもリズムにも乗れなかった。
特に連作集である「光の帝国 常野物語」は無駄なせりふ、描写があったように思えた。
読むことの面白さを感じない箇所があり読み飛ばしたくなった。
さらにアイデア、構想について書きっぱなしで伏線の回収をほとんどせずに終わっているということに不満を感じた。
すべての伏線を回収しなくてもよいと思うが、作品集として出すのであれば、ここまでは回収してほしいというところは私にはあった。
かなりとっちらかった印象のある連作作品集だと思う。
いいなと思う描写はあり、言わんとするところには心引かれるものもあるので、それがもう少し美しい形でまとまっていてほしかった。
第2作「蒲公英草紙 常野物語」は長篇。
こちらは日露戦争後の東北の田園地帯が舞台。
なんというか、甘酸っぱい話である。
いい話ではあるが、私にはちょっと甘かった。
泣かせどころはあるが、想定した範囲内で読み終えられる。
予想していたような感動のある話である。
心を鷲掴みにされるような、すごい話ではない。
第3作「エンド・ゲーム 常野物語」は打ってかわって現代社会を舞台にしたサスペンス。「常野物語」という雰囲気ではない。
内容はだいぶ違うが、私は宮部みゆきの「クロスファイア」という小説を思い出してしまった。
心の中の映像世界を描いた文章が非常に多い。
街を歩いている人間が、ある能力のある人間には植物や現代美術のオブジェのような姿に見えるという描写などから、山本英夫の漫画「ホムンクルス」を思い出した。
ともかくシュールな脳内世界の描写が多い。
作者はこのあたりの描写に拘泥しすぎているような印象を抱いた。
なぜか「ヒドゥン」という80年代のB級SFアクション映画に言及する部分がある。
テレビ東京でよく放送していたような映画だが佳作ではある。
もしかすると作者はSFサスペンス的なものを映像的な文章表現で構築しようとしていたのかもしれない。
とはいえ、この作品が一番とっちらかっている内容だ。
登場人物への感情移入がしづらい作品でもある。
以上、3作をまとめて読んだ感想は、1冊ごとに作品のトーンが違いすぎる! ということ。
また、伏線の回収を3作も書きながらあまりしていない。
2作、3作はほとんど独立した作品で、シリーズ全体の構成はまったく見えていない。
この後どうするつもりなのだろうか。
また、縁があればこの作家の作品も読んでみるかもしれない。