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羽海野チカ「3月のライオン」第5巻

零の過去と、ひなの現在のいじめについて描いた
「てんとう虫の木」にむちゃくちゃ感動した。
全体のストーリーからすると唐突なエピソードではあるのだが……
(→この後のストーリーに大いに関わってくるものでした。読み違えていた)
作者の中で何かこみあげてくるものがあったのかもしれない。

「明日からひとりだ」「ひ…ひとりぼっちになるの こわいよう…」
「ほんとはずっと 恐かった ひっく…… でもっっ でもっっ」
「後悔なんてしないっっ しちゃダメだっ」「だって」
「私のした事は ぜったい」「まちがってなんか ない!!」

自分もいじめられるのではと恐れながらも、
まっすぐに毅然と信念を貫き、
いじめられている子に手を差し伸べたひなの言葉に
嵐のように衝撃を受けたという零。

クラスに適応できず、いじめに遭っていた自分は
泣きながら話す、ひなの言葉に救われたと言う。

……その時……
……泣きじゃくりながらも そう言い切った彼女を見て……
……僕は かみなりに撃たれたような気がした……
……不思議だ……
……ひとは……
……こんなにも時が 過ぎた後で……
……全く 違う方向から……
「ひなちゃん」
……嵐のように 救われる事がある……

ひなの真摯な心は、
時間を超えて、しいたげられていた孤独な零の心を
救い出したのだ。

そして零は
僕がついている。一生かけてもこの恩は返すよ、とひなに語る。


作者はこのシーンについて、
考えに考えて、ネーム、絵の構成を考え
渾身の力で描いたと思う。
なぜなら普通、現在の人間の行動が過去の人間を救うなんてあり得ないことだからだ。
でも、それに挑戦した。

そして、これを読んだ多くの人が心を動かされた。

この漫画ではあり得たのだ。
普通ではあり得ないようなことが。
このシーンに心動かされた人の中では。

そんな奇跡的な瞬間が描かれている。

メインストーリーから外れたエピソードだが(→後で知ったのですが、この話続いていたのですね。知りませんでした。失礼しました。6巻ではメインのストーリーにも絡むエピソードとなってました)
すばらしい話、シーンだと思う。

こういうシーンを読むと本当に漫画を読んでいてよかったと思う。
※()内は6巻を読んでからの追記。

3月のライオン 5 (ジェッツコミックス)