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映像、書物、音楽などについての感想

バンクシー監督の映画「イグジット・スルー・ザ・ギフト・ショップ」

人を食った内容のドキュメンタリー映画だ。
いや、フィクションも混じっているのだろうが、虚実があいまいで、観た後に煙にまかれたような気分にさせられる。

監督はグラフィティ・アート(街の壁などにアートとして描かれた落書き)の第一人者であるバンクシーという人物。
私は詳しくはないのだが、
ウィキペディアによると

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バンクシー(banksy, 生年月日未公表)は、イギリスのロンドンを中心に活動する覆面芸術家。社会風刺的グラフィティアート、ストリートアートを世界各地にゲリラ的に描くという手法を取る。Banksy本人は自分のプロフィールを隠そうとしており、本名をはじめとして不明な点が多い。2005年、自作を世界各国の有名美術館の人気のない部屋に無断で展示し、しばらくの間誰にも気づかれないまま展示され続けたことが話題となった。

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開演前にはマッシヴ・アタックの曲が流れていた。
たまたま電車でマッシヴ・アタックを聴いていたので驚いた。
後でサイトを見たらマッシヴ・アタックと同様ブリストル出身のようだ。

彼は、この作品の語り部として登場するが顔は全く見えない。声にもエフェクトがかかっていたりする凝りようだ。

この映画自体は彼が語る、あるアーチストの半生という趣で進行する。

そのアーチストはティエリー・グエッタというL.A.で暮らすフランス人の妙なおじさんである。

ひどいなまりのあるこの人の素朴なキャラが面白い。

映画はこのおじさんの成功譚でもある。

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なんでもかんでもビデオカメラで撮影することが趣味のティエリーおじさんが、グラフィティアーチストたちの街での創作風景を撮影することに熱中する。
おじさんは見張りをしたり、創作を手伝ったりと撮影以外でも大活躍。

バンクシーは、彼にグラフィティアーチストの創作の模様を映像記録として残してもらうことを思いつく。

やがて、おじさんは何千時間に及ぶ自分の撮影した映像を基に映画を作る。

だが仕上がった映画を見せられたバンクシーはその映像センスに絶望、
映像はやめてグラフィティアーチストになることを軽い気持ちで進める。

その気になったおじさんは、自らを“ミスター・ブレインウォッシュ(MBW)”と称して活動にまい進。
やがておじさんは大規模な個展を成功させ、一気に人気アーチストとなってしまう。
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このおじさんの創作方法がすごい。
自分ではほとんど創作に手を下さないのだ。
指示するだけなのである。
「ああ、それスキャンしといて」という感じ。

仕上がったものを見て、
アンディ・ウォーホールのいまさらながらのエピゴーネン
などと詳しくない私は思ったが、どうなんでしょうか。
とすると創作の過程は21世紀の“ファクトリー”なのか?


バンクシーのコメントに笑ってしまった。
「ミスター・ブレインウォッシュ(MBW)は、アンディ・ウォーホルの正当な後継者といえる。なぜなら、アンディウォーホルは肖像画の価値をゼロにしたが、MBWの肖像画は初めから価値がゼロだからだ」(微妙に違っていたらすみません)


人を煙にまく、ヘンテコな人物を追ったドキュメント風作品ではあるが、なぜか見た後には妙な爽快感が残る。
同じようなヘンテコな人物を追った映画として「ゆきゆきて、神軍」を思い出したが、
「ゆきゆきて〜」を見た後の嫌な感じとは大違いだ。
“主演”のキャラクターの違いによるところが大きいのだろう。
愉快なおじさんである。