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天願大介の映画「デンデラ」の脚本を読む

この映画はずっと気になっていたのだが、見に行く機会がなかったため、月刊「シナリオ」に掲載されていたシナリオを読んだ。
監督・脚本は今村昌平の息子・天願大介
主演は浅丘ルリ子で、賠償美津子、山本陽子草笛光子らが共演。
出演者は基本的に中高年の女性だけというすごい映画である。
客層をどう考えて企画したのだろうと思った。

内容をログライン的に書くとこうなる。
“うばすて山”に捨てられた老婆が生き残って集落を作り、自分たちを捨てた村を襲って皆殺しにしようと計画する。そこに飢えた羆が襲来、老婆たちは暴虐で驚異的な生命力をもつ羆と壮絶な戦いを繰り広げる。

雑誌の映画評では、「“続・楢山節考”かと思っていたら後半が羆との戦い物語になり唐突だった」という文なども読んでいた。

脚本を読んで連想したのは「JAWS ジョーズ」だ。
アニマル・ホラー的にも読める内容というのもあるが、それよりも
ジョーズ」が
アミティ(名前を覚えてしまっていた)という小さな海沿いの町での人間模様を描く前半と
リチャード・ドレイファスの船に乗ってロイ・シャイダー、ロバート・ショーの3人が、海に出て巨大ザメと戦いを繰り広げる後半
このドラマ構造がこの作品にも当てはまるようにも思えたからだ。

特に、「ジョーズ」では後半の船で過ごす夜、3人が思いを語り合う部分が心に残るが、
それが「デンデラ」の登場人物が、それぞれの思いのたけを語っていくシーンと呼応するように思えた。


天願大介は、父親のことは別として
立秋川高校(都内唯一の全寮制都立高校。現在は廃校)
琉球大学の法文学部
→新潮社の編集者
→脚本家、映画監督 というユニークな経歴の人だ。

監督作は
障害者プロレス団体を追ったドキュメンタリー映画「無敵のハンディキャップ」
◆事故で車椅子生活を送ることになった元ボクサーの青年が合気柔術と出会い、修行をしていく「AIKI」
◆盲目の女性の家に、殺人容疑で追われる青年が逃げ込み、青年は自分の気配を消しながらも共同生活を続ける「暗いところで待ち合わせ」
という、異色作が多い。
そして「デンデラ」は
◆年老いて共同体から排除された老女が、排除された女性(男性は含まれない)の作る共同体に入り、そこで色々なことを体験する。
となる。
※デビュー作「アジアン・ビート アイ・ラブ・ニッポン」については見ておらず、骨子も知らないので省く。
→あと「世界で一番美しい夜」というのがありました。

上記の作品の特徴としては“既存の共同体への順応力において、弱さをもつ人間を主人公とする”という特徴があるように思える。

“世界”と自分とのかかわり、関係性については強く意識している映像作家なのではないだろうか。

月刊「シナリオ」にはインタビューも収録されているのだが
羆については「あえて言葉にして言えば“運命”ですかね」とのこと。

なかなかいい脚本だった。一般的には大きな話題になることなく忘れ去られそうだが。
DVDになったら見たいと思う。
シナリオ 2011年 07月号 [雑誌]