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スサンネ・ビア監督の映画「未来を生きる君たちへ」

未来を生きる君たちへ [DVD]

未来を生きる君たちへ [DVD]

あらすじを読み予告編を見てから気になっていた映画だった。
アカデミー賞外国語映画賞を受賞している。
スサンネ・ビアという女性監督は以前からちょっと気になっている。
日比谷のシャンテで見た。
映画が始まるとたちまち作品のなかに没入していった。

以下、あらすじを細かく書く。

最初の舞台はアフリカのサバンナ地帯。
地域とかは明示されないが政情は安定していないようで、暮らしぶりは貧しいようだ。
主人公のアントンはそこの野戦病院のような、キャンプ地のテントの病院で医療に携わっている白人医師である。
医療環境の整わない中、ねばり強く一人一人の治療と取り組んでいる彼の元に、
お腹に大きな裂かれた傷を負った女性が運ばれてくる。
治療を始めるが傷は深く女性は死亡する。
現地人の同僚は、これはこの近辺にいる無法者ビッグマンの仕業だと語る。
ビッグマンは妊婦のお腹にいるのが男か女かを賭けてその腹を切り裂いているのだという。
ここまで英語。

舞台はヨーロッバでの葬儀の場面に。
少年クリスチャンが死んだ母親への別れの弔辞を皆の前で述べている。
大人びている彼は、思いを抑えているがその悲しみは深い様子だ。
クリスチャンと父クラウスの2人は、現在暮らしているロンドンから
クラウスの母が暮らすデンマークの実家へ引っ越すことになる。
途中まで英語。
これ以降、基本的にデンマーク語。スウェーデン語もあるのかもしれないが不明。
アフリカは英語。

デンマークの学校に転校してきたクリスチャンは、
体の大きな乱暴者ソフスからいじめに遭っているエリアスと隣の席となる。
エリアスはソフスから、“このスウェーデン人!”と罵倒され、手ひどいいじめの対象になっていた。

(ソフスの家族がスウェーデン人であるという具体的な説明は以降もない。もしかすると家族内ではスウェーデン語で話しているのかもしれないが、分からない。デンマーク人のスウェーデン人に対する感情については寡聞にして不明。寛容さにかける“知的でない”保守的な人間が隣国人に対して意味のない敵意・反感・差別感情を抱くということなのかもしれない。日本を含め、これはどこにでもありそうなことだ)

エリアスは母マリアン、弟モーテンと暮らしている。そこにアントンがアフリカから帰国してくる。
エリアスはアントンの息子だったのだ。
だが、アントンとマリアンは過去のアントンの過ち(不倫?)が原因で別居していた。

正義感の強いクリスチャンは、ある日、トイレでエリアスをいじめているソフスを見かけると、
後ろから、ソフスを警棒でメッタ打ちにして叩きのめし、ナイフで脅して二度といじめさせないことを誓わせる。
このシーンは“悪者をやっつける”的な面もあるので、
見ている私には、クリスチャンの怒り、暴力に及んでいるときの興奮、快感が、共感と臨場感をもって伝わってきた。

ソフスは大怪我となり、ナイフのことも教師に知れ、クリスチャンとエリアスの親も学校から呼び出される。
2人は教師、親からナイフの所在のことを聞かれるがそんなものは知らないとシラを切る。
エリアスもクリスチャンのことをかばう。
クリスチャンは父から「何でそこまでする、私に相談してくれ。報復にはきりがない」と言われるが、
「体の大きな相手にはこのぐらいしなきゃ逆にやられちゃう。最初にがつんとやらなきゃなめられちゃうんだ」と過去の経験も踏まえてのことだと父に答える。

クリスチャンはエリアスを誘い、自分のお気に入りの場所に連れて行く。
そこは、港にある倉庫の屋上だった。
フェンスを越え、屋上の縁に立つクリスチャンは建物の下の風景を見下ろして気持ちよさそうだ。
だが、エリアスはこんなところに来るのはよくないよ、とその場所をあまり気に入っていない様子。

その後、いじめはなくなり学校は平穏に。
ソフスはクリスチャンに対し一目置くようになった。
クリスチャンの過激な行動は効果があったのだ。→実際のこのシーンはもっと後ろ。

そんなある日、アントン、エリアス、モーテン、クリスチャンの4人はカヤック遊びで港に来る。
そんな中、ブランコで遊んでいたモーテンが同年齢の子とちょっとした喧嘩になる。
「ブランコを取られた」と泣いているモーテンを見て、
アントンは相手の子をつかまえ、トラブルの理由を聞く。
そこに相手の子の父親ラースが割り込み、威圧的な態度をアントンに見せる、
アントンはさらに話し合いをしようとするが、ラースはアントンを平手で強くはたく。
騒然とする中、話しても無駄と、アントンは子供たちを車に乗せて、その場を去る。

車中、動揺する子供たちに平静さを見せるアントン。
だが、子供たちと別れ、湖沿いに建つ家に一人着くとアントンは、湖に飛び込む。
冷たい水につかって心の高ぶり、こみ上げる怒りを冷まそうとする。

一方、クリスチャンは理不尽な乱暴者のラースに対して気が収まらない。
ラースが港でよくたむろしていることを知り、エリアスを誘い、ラースの車から
仕事場、住所を調べ上げる。
そして仕返しをしようとエリアスに言う。

2人の行動を知ったアントンはエリアス、クリスチャン、モーテンを連れて
ラースの仕事場である自動車修理工場を訪れる。
工場で働く女性は、クリスチャンがラースのことをラーシュと発音したことで、
アントンを“スウェーデン人”とさげすむようにしてラースに引き合わせる。
「なんであんなことをしたのか理由を聞かせてくれ」と問うアントンに対して、
ラースはまたも威圧的な態度を取る。
「私はそんな態度にはひるまないし、殴れるものなら殴ってみろ、なんであんなことをしたんだ」
と問いかけるアントンにラースは逆ギレ、またもアントンを何度も平手ではたく。
アントンはひるまずにアントンと対峙。
興奮するラースを周囲の同僚が抑えようとして騒ぎになり、アントンもその場から去ることに。

帰りの車中で、「なんで殴り返さないの、相手が怖いの」と聞かれたアントンは
「あんな奴は怖くない、あんな愚か者になるのが嫌だからだ」と答えるアントン。
「あそこに行ったのは、あんな奴に対してもひるまない態度を示したかったからだ」と3人に語る。
エリアスとモーテンは黙ってそれを聞くが、
クリスチャンは「それじゃあ何も変わらないよ」と言う。

エリアスとクリスチャンはエリアスの家の物置で、エリアスの祖父が残したという花火のための大量の火薬を発見する。クリスチャンは火薬を使って爆弾を作り、ラースの車を爆破して仕返しをしようと提案する。
乗り気になれないエリアスだが、クリスチャンは次第に何かに取り付かれたように計画にのめりこんでいく。

一方、アフリカに戻ったアントンは、武装した無法者集団の荒々しい訪問を受ける。
集団のボスは無知で暴虐で片目のつぶれたビッグマンと呼ばれる悪そのものの男だった。
ビッグマンの片足は化膿し、ウジムシが沸いていた。
武装した部下を背後に、足を切断せずに治療しろとアントンを恫喝するビッグマン。
アントンはその態度に屈することなく、武器をキャンプに持ち込まず部下も大人数入れないことを条件に治療を引き受ける。
だが、アントンの周囲の人間は“なぜあんな男を助けるのだ”と彼に非難の目を向ける。

デンマークでは、クリスチャンの爆破計画についていけないとエリアスは協力を拒否。
2人は決別する。
だが、クリスチャンがエリアスに贈ったナイフについてのことなどの事件もあり、クリスチャンに対する友情からエリアスは彼に再び協力することになる。
ほかの人が怪我したら大変だよ、というエリアス。
クリスチャンは爆破は早朝にやる。誰もいないから大丈夫と返答する。

アフリカではビッグマンの治療が順調に進んでいた。
そんな中、ビッグマンに陵辱され腹を切り裂かれた女性が治療のかいもなく死亡、アントンらは悲嘆に暮れる。
冷静になろうと顔を洗っているアントンのもとに、松葉杖姿のビッグマンが2人の部下とやって来る。
女性の遺体に気づいたビッグマンとその部下は「リトル・プッシー・ビッグナイフ」と下卑た調子ではやしたて、
“あいつのプッシーは小さかったがナイフで大きく腹を裂いた”“死体を持ってけば、大喜びでやりまくる奴がいる”などと言いたい放題のことを言う。
それを聞き、アントンは激怒する。
怒りに駆られ“お前はここから出て行け!”とビッグマンを引き倒し、キャンプのゲートの側まで引きずって放り出す。
2人の部下は逃げ去り、放置されたビッグマンは、彼に憎しみを抱く集団に囲まれ、ゲートの外に引き出されて虐殺される。
ビッグマンの悲鳴を聞きながら机に突っ伏しているアントンは、自分の行動の是非について混乱している。

その夜、アントンの元にエリアスから電話が入る(スカイプ?)。
エリアスはクリスチャンのことで相談があると切羽つまった表情。
だが、接続が悪くやりとりがうまくできない。
エリアスは父の様子がおかしいことに気づく。
アントンは「今、混乱した状況にあるので明日のこの時間にもう一度話そう」と言って接続を切ってしまう。

翌日、クリスチャンとエリアスはラースの車の下に爆弾を設置。
導火線に火をつけて車から走り去る。
だが、そこにジョギングをする母子が角から現れる。
それに気づいたエリアスは、向こう側から来る母子を止めようと、「来るな!」と叫びながら
車に向かって走っていく。
それに気づいて止まる母子。
車の下の爆弾が爆発する。
大音響とともに車は吹き飛ばされる。

エリアスは車の近くに体をねじまげた体勢で倒れていた。

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以下は簡単に。ネタバレです。

エリアスは一時は危険な状態になるが、後遺症も残らず回復していく。
クリスチャンはショックで倉庫の屋上から飛び降りて自殺を図ろうとするが、
そこを訪れたアントンにエリアスが生きていることを聞かされ、死ぬことを思いとどまる。
事件のことがきっかけでアントンとマリアンの関係が修復の方向に向かう。
クリスチャンはつきものが取れたような表情になる。
アフリカで働くアントンの表情。
アフリカの子供たちの表情。

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1回見ただけなので細かい部分では間違いもあるかもしれないが、おおむね上記の内容だと思う。
ひと時も気をそらさずに見た久々の映画だった。
ドラマとしての盛り上がりがあり、難しいテーマだが、嫌な感じを残さないエンディングにしているのが印象的だった。

予告編を見たときには“いじめとアフリカ”みたいなシチュエーションでどう話が進むのかと思っていたのだが、違っていた。
私にとってはこの映画は“暴力”をテーマにした作品だった。
この映画を見て“暴力”についてこんなことを思った。

1.暴力は、人を恐れさせ支配する力である。
2.暴力に対して暴力で対抗することは解決にならないとは言われるが、そうなのだろうか。
3.暴力に屈しない強さを示すことではだけでは、暴力で人を威圧する人間、その状況を変えることはできないのでは。


1.については言うまでもないことだと思う。
このことを受け、以下の2つの問題に対する答えがこの映画のテーマなのではないだろうかと私は思った。
そして答えは明快でないことが答えであるという内容になっていると思った。

2.について言うと、エリアスへのソフスのいじめは、クリスチャンによるソフスへの暴力によって止まったように見える。父のクラウスは報復にはきりがないとクリスチャンに言ったのだが……

3.のアントンだが自動車修理業者のラース、ビッグマンに対して考えを変えることはできなかった。一方、クリスチャンの暴力への志向はおさまったように見える。ただ、クリスチャンの暴力志向は不安定な状態にあった彼の一時的な心のゆれだったのかもしれない。

答えはないまま話は終わっている。
とはいえ、ラストの自然のモンタージュ映像で心癒される感もあり、
実は解決しえない問題を解決せずにドラマとしてはまとめあげた良質の作品と言えるのではないだろうか。
“LIFE GOES ON”て感じの締めですかね。

ただ、暴力と憎しみ、差別などネガティブな連鎖を後味悪く描きながら、中盤でかすかな希望も描いた映画「アメリカン・ヒストリーX」のほうが、長い目で考えると、見た人の心に残る作品になるのではないだろうか。

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人それぞれ好みはあるとは思うが、あの映画には本当に心を揺さぶられた。
個人的には「まあまあですね」とかいう人の感想が信じられない。

「未来を〜」にはあれを超えるほどの圧倒的なものはなかった。
こちらはちょっと最後を綺麗にまとめすぎたという感も。

あと思い出したのだが、暴力をテーマにした監督といえばクリント・イーストウッド
許されざる者」「グラン・トリノ」というものすごい名作があった。
特に「グラン・トリノ」は先の疑問にあった暴力に対抗する行動として、映画ならではの特筆すべき感動的な行動を主人公が取っていた。

以上、思ったことをつらつらと書き連ねました。

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