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映像、書物、音楽などについての感想

ジュリアン・コープ「JAPROCKSAMPLER ジャップロック・サンプラー 」05

ジュリアン・コープ「JAPROCKSAMPLER ジャップロック・サンプラー 」04
からの続き

第2章
9.タージマハール旅行団
10.J・A・シーザー
11.佐藤充彦と限りない可能性を模索した時代
12.ファー イースト ファミリー バンド
著者のトップ50
まで読んだ。
本編は全て読み、現在、折田育造のインタビューの途中。

以下、読書メモ

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P244 '70年の大阪万博のことも書かれている。
小杉武久は万博で音楽を担当(ウィキペディアによると祭り広場の音楽を制作とのこと)したが、
西ドイツ館の「スフェリカル(半球形)・オーディトリアム」でシュトックハウゼンが行った長時間コンサートに非常に感銘を受けたそうだ。
マニアックなネタだが、著者によるとそのコンサートにはフルート奏者としてカンの創立期のメンバー、デビッド・ジョンソンが加わっていたという。
真偽はわからないが……

P258 J・A・シーザーに著者はかなり惹かれているようだ。
シーザーの経歴が紹介されているのだが、これが寺山修二・シーザーのホラ話にさらに著者の妄想を加えたものになっている。
あまりに現実性のないものなので引用は省くが、ここでの著者はもはや幻視者であり、それは自身も自覚しているように思える。
なぜかシーザーは静岡でスカウトマンの「ヤクザ」阿部譲二と出会ったことになっている。著者がなぜ単なるヤクザを阿部譲二と名前で紹介した意図は不明。

→後で高橋咲「15歳 天井桟敷物語」を読んで理由が判明。
高橋咲「15歳 天井桟敷物語」の感想メモ

波乱万丈の旅をへて九州から東京に着いたシーザーは、東京大学に入学するつもりで受験料70万円を準備。→70万というのがすごい。
だが受験に行く途中、深い霧に巻き込まれ、東京デザイナー学院の建物の前に行き着く。そして天啓を受けた彼は、そこに入学したのだという。

ファー・イースト・ファミリー・バンドについては、怪しげな宗教がかったようなアルバムジャケットを見て敬遠、まったく聴いていなかった。
喜太郎が在籍していたことくらいしか知らなかった。
クラウス・シュルツ(ェ)のプロデュースでヴァージンのマナー・スタジオでレコーディングをしていたと知り驚いた。
リーダーの宮下と喜太郎、どちらも癒しの音楽の人になった。
プログレ出身の人にありがちではある。
著者がここまで絶賛するので、このバンドも聴いてみたい。

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↓以下、後で聴いた感想
「多次元宇宙への旅」の感想メモ

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著者のトップ50のレビュー、文章がすごい。幻視者ならぬ、幻聴者とでもいうべき勢い。
'70年代のロック・マガジン、フールズ・メイトにあったような文章が炸裂する。
国は変わっても同じような人はいるのだ。
私は面白く読めて感銘も受けるものもあったが、非常に文学的なのでこの本を手に取って、本編の前にこれを読んだ若い人は辟易するのではないかと思った。


1位 フラワー・トラベリング・バンド「SATORI」

サトリ

サトリ

2位 スピード・グルー&シンキ「イヴ 前夜」
イヴ前夜

イヴ前夜

3位 裸のラリーズ「HEAVIER THAN A DEATH IN THE FAMILY」
Heavier Than a Death in the Family

Heavier Than a Death in the Family

4位 ファー・イースト・ファミリー・バンド「多元宇宙への旅」
多元宇宙への旅

多元宇宙への旅

5位 J・A・シーザー「国境巡礼歌」
国境巡礼歌 完全盤

国境巡礼歌 完全盤

となっている。
非常にユニークなセレクションだ。

アルバムを持っているのは『国境巡礼歌』だけだった。でもこれを5位に挙げるとは。
『SATORI』はきちんと聴いていなかった。
ラリーズはかつてライブは何回か観たが、近年の海賊版の流通に乗ってCDを聴くことはなかった。

著者の『SATORI』の絶賛がすごい。
P317 「〜というのも《SATORI》はこの地上に放たれたハード・ロックの狂乱のなかで、史上もっとも素晴らしいもののひとつだからだ。〜当時の日本の水準のはるかに上を行き、〜事実《SATORI》はあまりに孤立しているため、いまだにほかのレコードと、ほんとうの意味で比較することはできない。そんなレコードは実のところ、まだつくられていないのだ」
これは最上級の賛辞である。

ほかには4人囃子に対する評価が興味深い。著者は49位に意図的に入れている。
P345 「ところどころで嫌悪を催す、だが大部分は精緻なこのレコードのコンポーネント・パーツは、これらの紳士たちが順番を間違えない限り、常に純正だ。〜もしあなたの未婚のおばさんが、'70年代のプログレ的な青春にまつわる映画のごくごく一般的なロック・サウンドトラックをデザインしたとしたら、きっとこのレコードそっくりに聞こえることだろう」
なかなかこのバンドについて鋭い意見を書いていると思った。
著者から見れば、剽窃がうまく、テクもあり器用だが突出した面白みがないということだろう。
この音楽は著者の求めるものではないのだ。その点はある程度共感した。

↓に続く。これでおしまい!
ジュリアン・コープ「JAPROCKSAMPLER ジャップロック・サンプラー 」06