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植草一秀「日本の独立 主権者国民と『米・官・業・政・電』利権複合体の死闘」02

植草一秀「日本の独立 主権者国民と『米・官・業・政・電』利権複合体の死闘」の続き。

著者がこの本で最も非難しているのが、小泉首相と金融・経済財政政策の担当大臣となった竹中平蔵コンビの政権だ。

著者は小泉竹中政権を『米・官・業・政・電』の悪徳ペンタゴンの手先となって日本経済を崩壊させ、日本の共生の美徳を失わせた最悪の政権とののしる。

この小泉竹中政権の評価に関しては、感情的になっている印象はぬぐえない。

とはいえ、
「平成の黒い霧」と題して章立てで解説している
1.新生銀行上場認可
2.りそな銀行への措置
3.郵政民営化の実際
4.かんぽの宿不正払い下げ事件
5.日本振興銀行設立の裏
の5件についてはここで読んでも“黒い”部分で信憑性の高いものもあり、
今から当時を回想すると確かにそうだったのかもと納得させる記述も多い。
“小泉竹中は日本をアメリカに売った”と言われても否定できない面はある。

さらに語られる“小泉・竹中の悪徳”については、著者の主観も私には感じられるのでここでは触れないが、
以下の記述については誰もが納得できるだろう。

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P353 小泉竹中政治は市場原理主義に基づく経済政策を実行した。この結果として日本社会が根本から変質してしまったことは事実である。小泉竹中政治の最大の誤りは、効率化を追求して規制緩和を進める際に、セーフティネットを整備しなかったことにある。同時に、経済活動の果実を資本と労働にどう分配するのかという、資本主義誕生以前の根源的な問題に対して、政策からの規制を加えず、市場原理という装置にすべてを委ねてしまったことが激烈な結果をもたらした。

P368 経済政策の思想史を振り返ると、「ケインズ的経済政策と市民的自由」と「ハイエク的経済政策と治安管理を重視する経済体制」との間で周期的な揺り返しが繰り返されてきたことが指摘されることが多い。自民党政治でも、かつての例えば小渕政権においてはケインズ的政策の色彩が濃かったが、小泉政治に至ってハイエク的政策と治安管理を重視する傾向が一気に強まった。

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著者の分析を私なりに理解したことを、ごくおおざっぱに説明すると、
小泉竹中政権は不況を克服するために、「企業を生かして人を殺す」という非情な政策を取ったということ。
そしてその政策は、日本に及ぼした弊害のことを考えれば、明らかに失敗している。
そして日本の相互扶助的な地域社会を崩壊させ、伝統的な美徳を失わせた。

ということになるのだろうか。ほかにも弊害はいくつも述べているがここでは省略する。

そしてこの本を読んで改めて気づいたことがある。
小泉政権は、改革と称して国民に大きな負担をかけながら失敗した。
それなのに高い内閣支持率を得ていた、そして現在も強く非難されることがないということだ。

小泉自身のキャラクターの独自の魅力と演出、飯島秘書のメディア対策、情報操作の効果もあるのは確かだ。
ただ、それに加え、ある程度の大手マスコミのバックアップ報道があったのではと今になると思えてくる。


非常に高い支持と大きな期待で始まった民主党・鳩山政権が、普天間基地問題で致命的な失敗をしたとはいえ、
わずか9ヶ月であそこまでヒステリックに非難され辞任するようになった流れと比較すれば、小泉政権の高支持は不自然だ。

結局、小泉竹中政権はアメリカをはじめとする大きな力をもつ既得権益側に従属して、郵政などの別の既得権益側への攻撃を“改革”の声をあげて行った。
自民党をぶっ壊すというスローガンで攻撃されたのは、田中角栄経世会の流れだったと著者は指摘している。まさにその通りだと思う。


自民党から民主党への政権交代後、
鳩山政権は、アメリカという最も大きな既得権益側に抗して、改革を訴えつぶされた。
そう語る著者の主張もなるほどと思えてくる。
テレビと新聞の報道、特にテレビについては注意すべきと主張する著者の言葉には説得力がある。

↓に続く。
http://d.hatena.ne.jp/allenda48/20111005/1317782476

日本の独立

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