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真鍋昌平の漫画「スマグラー」と映画「スマグラー おまえの未来を運べ」

映画「スマグラー お前の未来を運べ」を見たので、原作の漫画を読んでみた。
闇金ウシジマくん」の真鍋昌平が新人の頃、2000年に描いたものだ。
今回読んだのは映画化に合わせて出版された特別読み切りを掲載した新装版だった。
ちょっとした前日譚的な短編が載っている。

映画は、原作のストーリーをほぼをそのまま映画化していたことがわかった。
そして、原作を読んで改めて、映画の出来のよさを再認識した。

ずいぶんきっちりと映画化していたので予想と違い、ちょっと驚いた。
1巻の漫画を映画化したものとしては、かなり成功した作品なのではないかと現時点では思っている。

原作自体は意外に省略が多く、登場人物の感情の微妙な動きについてはわかりずらいところがあった感がある。
(週刊誌の版をコミックの版にしているので絵が小さくなっている点もあるのだが……)

だが、映画では、さりげないセリフや仕草で、漫然と見ていても登場人物の間でやりとりされる微妙な感情のやりとりがわかるように作られている。
説明的になることなく、シチュエーションと登場人物の演技で、反発、和解、羨望、嫉妬、相互理解といった人物間の感情的つながりが見ている者に非常によく伝わった。
脚本と演出、演技によるものだと思う。

原作ではその点については、丁寧なものではなくぶっきらぼう。
ある種言葉不足ではあったので、独特の味わいが楽しめたが娯楽作品としては映画の方がわかりやすく作られていると思った。

また、キャラクターを立てるための設定、セリフの改変などが効果的になされていた。

特に笑いの部分に関してはコンビニ、立ち食いそば屋のシーンなど原作にはないコミカルな味付けがされていた。

リンダ・シガーというアメリカの脚本分析で有名な人が
映画の5大要素として
・ストーリーライン
・キャラクター
・アイデア
・イメージ
・ダイアローグ
をあげている。
著書「ハリウッド・リライティング・バイブル」(原題=“Making a Good Script Great”)を読んで、感心することが多かったので、
私は脚本を読む際にはそのあたり留意して読んでいる。

その観点からこの映画を見ると、
ストーリーラインについてはほぼ原作そのままだ。
以下のキャラクター、アイデア、イメージ、ダイアローグについては原作をさらに練り上げ、さまざまな工夫がなされていた。
わかりやすくメリハリをつけた作品に仕上げている点では、漫画と映画ではメディアが違うというのはあるが、正直、原作を凌駕しているように思えた。

特に、見せ場を作って、キャラを立てることに関してはそう感じた。

この漫画の映画企画自体は、石井克人監督がプロデューサーに持ち込んだとのことなので、
映像化のイメージがかなりあったのではないかと思う。

石井監督による漫画の映画化としては、かつて「鮫肌男と桃尻女」があった。
随分前に見たので内容はよく覚えていないのだが、おそらく今回の方が漫画の映画化作品としては成功しているように思える。

清水宏の「按摩と女」をリジナル・シナリオそのままにリメークした「山のあなた〜徳市の恋〜」を手掛けたことなどの経験が生きているのかもしれない。2作とも未見なので、乱暴な推測だが……。

新装版 スマグラー (アフタヌーンKC)

新装版 スマグラー (アフタヌーンKC)