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郷田マモラ「モリのアサガオ 新人刑務官と或る死刑囚の物語」1〜7巻

モリのアサガオ―新人刑務官と或る死刑囚の物語 (1) (ACTION COMICS)

モリのアサガオ―新人刑務官と或る死刑囚の物語 (1) (ACTION COMICS)

2007年度の文化庁メディア芸術祭 マンガ部門の大賞受賞作。
タイトルにある通り“新人刑務官と或る死刑囚”の関係を軸に、ほかの死刑囚、刑務官、その家族や被害者、被害者家族の人間模様をつづったものだ。

全7巻というボリュームで重く深い、まさに“魂の物語”が展開する。


7巻一気に続けて読んでさすがにぐったりした。
シリアスに人殺しや死刑執行のシーンをがっぷり組み合って描いているので、読んだ後、ぐったりするのは当然なのかもしれない。
主人公は死刑囚の暮らす拘置所を“深い森”と何度も語るが、読んでいる私もその森の中をさまよっている気分になってしまった。

読み終えた後に、“森の中からは出て、すっきり”という気分にはなれない。もやもやとした何かが読んだ人のなかに残る。
もちろん、作者はそのことを望んでこの作品を描いたのだろう。

3年に渡ってこの作品を連載した作者の胆力に感嘆する。


4巻までは拘置所にいるさまざまな死刑囚との交流を順を追って描いている構成。
5巻から主人公・及川直樹と同い年の死刑囚・渡瀬満の物語が怒涛の勢いで展開する。

死刑の是非がこの作品の重要なテーマのひとつになっているのだが、作中、主人公・及川は肯定か否定かで揺れ続ける。渡瀬の死刑執行となる時点、物語が終わる時点でどちらを選ぶのかはラストまでわからなかった。

現実的にはそりゃないよなという部分はある。
物語の展開上、ベタなものや、ある種の“幼さ”を感じるところもある。
ただ、それは否定的にとるものではないと思う。
ただそれを補ってあまりある心を打つものがこの作品にはある。
論文や評論でなく、物語を読んでいるのだから。
その物語の中で心を動かすリアリティがどれだけあるかが重要なのだと思う。

ただ、好青年の及川がこの仕事について真面目に取り組んでいることで結局、結婚できず一人で暮らしているということに切ないものを感じた。
フィクションではあるのだが、彼には家庭は持ってほしいと思った。
番外編ではどの時点を描いているのだろうか。

おまけのエッセイ漫画の類も充実している。

この作品のお題は漫画アクション編集部から出たものだったという。
作者の編集部に対する信頼の言葉を読み、こういった作品を書くことができる郷田マモラという人間の一端を知った気がした。
ただ、よくないと思ったものについてもはっきりと書いていて、しっかりとした自分を持っている人だなと思った。

この独特の絵については読む人によって好みは分かれると思う。
私はあるシーンではすごくいいと思ったし、また別のあるシーンでは、ちょっとなーと思ったこともある。
漫画家というよりは、イラストレーターの描いた漫画みたいだなと思っていたら、実際にイラストレーターをこの作家はやっていたようだ。
面相筆という眉毛などを描くのに使う細い絵筆を使っているそうだ、なんとなく納得してしまった。

追記
その後、作者の“事件”を記事で読み、こういう仕事をしていること、している人の“業”みたいなものを感じてしまった……