見て読んで聴いて書く

映像、書物、音楽などについての感想

齋藤智裕「KAGEROU」

俳優の水嶋ヒロが、ポプラ社小説大賞を受賞して話題となった小説。
毀誉褒貶の多かった小説ではあるが、
去年の12月に刊行されたものなので、程よく時も経ていたたこともあり、先入観なく読めた。
電車の往復で読み終えた。

個人的にはかなり気に入った。
因果関係のつなぎかたなど、若干読んでいて引っかかる部分もあったが、
推敲された部分も多かったのだろう。全体としてはすんなりと読むことができた。

小さなエピソード、シークエンスをつなげて物語全体を構成していく勘はもっている人なのではないかと思った。
この本を何の先入観もなしに渡され読んだとしたら、たいていの人がすんなり飽きることなく読み進めていくことができるだろう。物語が停滞することなくスムーズに、それなりに葛藤も作りながら展開している。

作品に込められた世界観、世界へのまなざしといっていいのだろうか、
読んでいて感じられるそういったものにも好感を抱いた。
読者の心を打つものを書くことのできる人だと思う。

タレント、歌手が書いた小説という類のものではないと思う。
レベルというより次元が違うという感じだ。
技術ではなく、“何か”だと思う。

著者がもし続けて書き続けるとしたら、書いたものを追っていきたいと思った。

辻仁成さだまさしの小説よりもこの作家の小説の方が好みである。
ずっと書き続けて、アイデアをうまく転がすことができるようになれば、伊坂幸太郎クラスにはなれるのではないか、などと思った。

ただ、長編が向いているかどうかはこれだけだとまだわからないが。

一般的にはけなされることの多かった小説のようだが、以上が先入観なしで読んだ私なりの感想だ。
めげずに書き続けてほしい。
山田悠介あたりと比較するのは無意味でしょう。
嫌な言い方になるが偏差値がまず違う。

KAGEROU

KAGEROU