見て読んで聴いて書く

映像、書物、音楽などについての感想

まつもとあつし「生き残るメディア 死ぬメディア 出版・映像ビジネスのゆくえ」

アスキー・メディアワークスの情報サイト「ASCII.jp」で連載していた記事「メディア維新を行く」を再編集、再構成したものとのこと。
色んな人にインタビューしたのをまとめたものだった。

プロローグ ネット帝国主義、その先にあるもの
第1章 電子化が出版業界を揺るがす
第2章 テレビからネットへ−界面を巡る動き
第3章 メディアシフトを動かすもの
で構成。

なるほどと思う部分もあるのだが、俯瞰したものが見えてこないので読んで残ったものがない印象が強い。

私は読んでいて気になる部分には付箋をつけるのだが、結果として付箋はほとんどつくことがなく読了した。

付箋をつけていたのが「電子書籍三原則」の部分。
1 所有感があり同期されること
2 検索・引用可能であること
3 ソーシャルな読み方ができること
となっている。

1は通常の書籍と同様プラス電子書籍のメリットなのでわかる。
2は電子書籍ならではの重要なポイントだ。この部分には期待している。
3についてだが、この本で示されているソーシャルな読み方についてはちょっと疑問を抱いた。
ここで書かれている一例は、電車の中で読書アプリを立ち上げ、小説を読んでいる未来予想。
新しい章が出たところで「このページは○○さんも読みました」という表示が出てきて、読んでいる男性は同僚の彼女もこの本を読んでいたんだと思い〜ということが書かれている。(P116)
本を読むこと(読み進めること)って基本的に個人的なことなので、面白い本を読んでいるときにこんなことに注意するのだろうか。そもそも行為としての読書自体はソーシャルなものでなく個人体験なのではないだろうか。読書体験をソーシャルなものに広げることの方向性がなんか違うように思えるのだが。正直、この未来予想部分には説得力がないと思った。

読了後、総論が感じられないので物足りなかったが、
プロローグの最後に
「本書が、先人達の努力を背景に、いまを走り続ける維新人(びと)たちの姿を点描することに少しでも成功していれば幸いである」
と“点描”とあるので俯瞰したものを求めるのが無理だったのかもしれない。
あと個人的には“革命”“維新”という言葉には、ちょっと眉唾なものを感じる人なので、タイトルどおりかなみたいな読後感でもあった。

余談だが、この引用部分を書くときに“達”と“たち”をふたつの表記で書いてあったことに気付いてしまい、ちょっと驚いた。この本、こんな短いセンテンスでも表記が統一されていないのか……