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岩見吉朗「マンガの方法論 マンガ原作発見伝 その知られざる現場のすべて」

マンガの方法論 マンガ原作発見伝 (コミック)

マンガの方法論 マンガ原作発見伝 (コミック)

著者はロック雑誌「ロッキング・オン」編集部出身のフリーライターだった岩見吉朗。
現在は久保緑郎、義凡のペンネームで漫画原作者として活動しているとのことだ。
マンガ学部で有名な京都精華大学の講師もしているらしい。

彼が自分語りを交えながら、漫画原作とはどのようなものであるかを解説している本となっていた。
色々な意味で面白く、通勤の行き帰りで一気に読み終えてしまった。

この本は、漫画原作者の書いた漫画原作に関する本ということで興味を抱き、手にしたものだ。
著者がロッキング・オン出身のライターだったということは知らなかった。
多分、著者の原稿は読んだことがあるはずだ。

で、読んだ感想メモ。

以下の章立てで構成している。

第一章 原作者とは何か
第二章 原作者になるまで1
第三章 原作者になるまで2
第四章 原作者になってから
第五章 原作をマンガにする1
第六章 原作をマンガにする2
第七章 原作者まだまだ語る

第一章ではマンガ原作には大きく分けて
・小説形式のもの
・シナリオ形式のもの
・ネーム形式のもの
があると解説している。

私は漫画原作は、基本的にシナリオ形式で原作が書かれていると思っていたのでこの分類がちょっと意外だった。
この本を読むと、どうやら梶原一騎は小説形式で原作を書いていたようだ。
著者は美術館の展示で高森朝雄(梶原一騎)による「あしたのジョー」の原作の生原稿を見たという。
その原稿は、擬音がふんだんに使われていたが「ほぼ小説と言っていいもの」(P13)だったそうだ。

ただ、小説形式はかなり珍しいもので、ほとんどはシナリオ形式のようだ。

最近はネーム形式の原作も増えているとのこと。
ネームというのは、真っ白な紙にコマ割りをして、ラフな人物、背景の構成図にセリフ入りのフキダシを書き入れたもの。
いわゆるネームを切るといわれるこの作業は漫画家がするものと私は思っていたが、最近は原作者がここまですることもあるそうだ。
ネーム原作としては「ヒカルの碁」「デスノート」「バクマン」が有名らしい。
バクマン」の主人公の一人は“ネーム原作者”だそうだ。
バクマン」は恥ずかしながら読んでいなかったので、主人公の一人が、単なる原作者でなくネーム原作者ということは知らなかった。

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追記:
その後、「バクマン」は読んだ。
「バクマン」を読んだ感想メモ

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岩見の見解によると、ネーム原作者は今後増えていくのではとのことだ。
この本では、京都精華大の生徒による実際のネーム原作とそれを基に完成させた漫画作品も掲載している。
ネーム原作と実際の漫画を上下2段で並行して載せているので、ネーム原作というものが、どういうものかひと目でわかるようになっている。
漫画作成ソフト、「コミPo!」などの普及でネーム原作はさらに増えるのではと岩見は語っている。

ここまでは平易なわかりやすい文章が続く。
なかなか丁寧な口調で語られる「漫画原作入門」だな、などと思っていた。

だが、第二章以降からロッキング・オン出身らしい著者のカラーが出てくる。
一応、「自分なんかの話をするのは気が引けるのですが、しばしおつきあい下さい」(P33)と書かれた以降からロッキング・オンの世界に突入。
先ほどまでと違った熱いトーンの自分語りが展開していく。
本筋からはずれまくるのだが、個人的にはそこが読みどころだった。

内容のアウトラインは、章と説の見出しを見れば推測できると思われるので以下に書く。

第二章 原作者になるまで1 ロッキング・オン編集部からフリーライター
・なりたくて原作者になる人間はいない?
・人生いろいろなマンガ原作者
・何もやりたいことがなかった……
・理不尽なサービス残業、入社五ヶ月で退社
・人生を考え直す
・憧れのロッキング・オンに入社!!
・初めて書いた原稿が認められ、掲載される
マニック・ストリート・プリーチャーズの衝撃
・退社しフリーライター

第三章 原作者になるまで2 マンガ業界に拾われる〜マンガ原作に王道なし
ロッキング・オン掲載の原稿◆「やっぱり老いぼれる前にくたばりたい」クラッシュ「シュッド・アイ・ステイ・オア・シュッド・アイ・ゴー」と身辺雑記
・どんどんスランプになり、書くことが怖くなる
・マンガ業界に拾われる
・ストーリー協力者としてうまくいった理由
・ついにマンガ原作者を志す
・「ラーメン発見伝」連載決定!!
・マンガ原作者になるには……

語られていることは以下の感じである。

秋田県で生まれ、ストレートで新潟大学法学部を卒業、某一部上場会社に就職した著者。
だが、「そこは、仕事の出来ない新米など、アホバカ呼ばわり、ゴミクズ扱いされる体育会的体質なキツイ職場」(P33)だった。

で、以下のように語る。
「そして何より嫌だったのがサービス残業。百時間近く残業して、十時間ぐらいしか申請させてもらえない。しかも、『お前みたいな役立たずに残業代払ってやってるんだから、ありがたいと思え』とまるで恵んでやるようなことを言うのです。これは本当に頭に来ました。今でも思い出すと身が震えるほどです。働いた分のお金を払うのは当然のことで、それをしないというのは泥棒ですよ。社員は奴隷ですか。おかしいじゃないですか。(中略)
ある経営コンサルタントの、こんな記事を読んだことがあります−−新人サラリーマンの『サービス残業が多く納得できない』という相談に対して、その経営コンサルタントの返答は、『あなたは、そう主張できるだけのお仕事をしているのですか。まだ入社したてで、全然プロ意識がないようですね。世の中はそんなに甘くはないですよ』。たぶん彼は、色んな社長に媚びへつらって生きている御用コンサルだったんでしょうけど、公の場で恐ろしいことを言うものです。
サービス残業は明白な違法行為であり、それを『世の中は甘くない』で済ませられるなら、私があのコンサルの家に押し入って、ナイフで身体中メッタ刺しにして、全財産を奪っても、『世の中は甘くないですよ』と言ったら、許してくれるのでしょうか。」(P34)

サービス残業から始まって“ナイフでメッタ刺し”で終える。
恐るべき論旨の飛躍である。
20年以上前のことなのに思い出して身が震えるとは……
すごい人だと思った。

このような不満を抱えていた著者は、営業部に配属されて2ヶ月後に退職を決意。
「それにあたっては、先輩から上司から様々な人たちに『何がサービス残業だ。ふざけるな。ただの搾取、泥棒じゃないか。この馬鹿野郎』と悪態をつきまくりました。私はのび太くん系のルックスの上、性格も真面目で温厚と思われていたので、突然の豹変に彼らは青ざめていました。悪魔憑きかなにかと思われていたかもしれません。〜円満退社どころか陰険きわまりない辞め方でした。しかし、今振り返っても、『あれは大人げなかった、若気の至りだった』とは思いません。仕事が辛いという理由だけで暴れたんだったら、そう思うでしようけど、私はサービス残業という違法行為の被害者だったのだから怒って当然です。二、三年前にも、今からあの時の残業代を請求できないかと考えたくらいです。さすがに二十年以上も経っていては、もう無理そうなので諦めましたが」

確かに、この本の扉に載っている著者の写真を見ると、松本零士の漫画に出てきそうな眼鏡をかけた温厚そうな男性の写真。
文章上とはいえ、穏やかそうで丁寧な人がいきなりキレて怒りまくる唐突な展開に本当にびっくりした。
私も著者の退職の現場にいたら“悪魔憑き”と思ったかもしれない。

ということでその某大企業(さすがに名前は出ていない)退職後、広告営業としてロッキング・オンに入社。
その後、編集のほうが向いていると会社(渋谷陽一?)に判断されてロッキング・オン編集部に異動。
編集部で約3年間過ごしたという。
ロッキング・オンでの日々こそが私の青春でした」(P41)と著者は語る。

だが、次第に編集よりはライター志向が強くなり、退社してフリーライターになることを決める。

驚くべきことに、著者はロッキング・オン在籍時のラスト原稿をこの本に掲載している。
題して
「やはり、老いぼれる前にくたばりたい −クラッシュ『シュッド・アイ・ステイ・オア・シュッド・アイ・ゴー』と身辺雑記」
この原稿がまさに投稿雑誌だったロッキング・オンを象徴するような“熱い”激白なのだ。
クラッシュの曲に自身の思いを託して、俺が! 俺が! と熱い思いを語りまくるのである。

自分なんかの話をするのは気が引けるのですが、しばしおつきあい下さい」(P33)とはあったが、そこまで語るとは……
ロックのことなど興味がなく、漫画原作のことを知りたくてこの本を読んだ人は、第二章からの怒涛の展開にびっくりするのではないだろうか。
マニックスのことなんて漫画家志望の若い人は知ってるのだろうか。

この本のテーマである漫画原作の概論と著者がロッキング・オンを退社する際に書いた檄文は、まったく関係はないと思う。
久々に「とんでもないものを読んだ!」と思った。

でその後、フリーライターになるがモチベーションが下がり、仕事も減る中、漫画におけるストーリー協力者の仕事をするようになる。
そこから漫画原作を志すようになり、現在に至るという感じのようだ。

第四章になり、トーンは第一章の平静なものに戻る。
以降、自作「ラーメン発見伝」「ラーメン才遊記」の制作裏話などを披露。
自作の短編「お疲れさまでした」「フィールド・オブ・ドリームス」はシナリオ形式の原作と完成した漫画も掲載している。

ラーメン発見伝」など著者の原作による漫画を読んだことは私はない。
ここで読んだ上記の短編が初めてだった。
かなり癖のある内容だった。
第二、三章で語られていた思い込みの強い著者のキャラクターがうかがえるものになっている。
もしかすると、思い込みの強さはデフォルメされた世界を描くことが可能な漫画の世界に向いているかもしれない。
読んだときのインパクトはあると思う。
ただ「ラーメン〜」は普通の漫画だと思う。

感想としては以上。


ちなみに現場の人が書いた漫画原作の創作論的な書籍としては、以下のようなものがある。
アマゾンにレビューを書いてます。

「マンガ原作の書き方 入門からプロまで77の法則」

マンガ原作の書き方 入門からプロまで77の法則

マンガ原作の書き方 入門からプロまで77の法則

↑オーソドックスで、項目立てで書かれてあるので、具体的な作業に役立ちそうな気がする。

山本おさむ「マンガの創り方―誰も教えなかったプロのストーリーづくり」

マンガの創り方―誰も教えなかったプロのストーリーづくり

マンガの創り方―誰も教えなかったプロのストーリーづくり

↑非常に分厚い労作だ。だが、書いてあることは正直ありきたりな感もある。自作と高橋留美子の漫画を掲載、分析している。

小池一夫「人を惹きつける技術 -カリスマ劇画原作者が指南する売れる『キャラ」ー』の創り方」

↑私自身はなかなかインスパイアされるところの多いものだった。偏見なく読めば創作において役立つと思われます。

岩見吉朗の今回の著作は、上記の本と比較するとずいぶん奇妙な内容である。
創作論を読むより、ロックと漫画が好きという人なら読んで楽しめるかもしれない。