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柳沢きみお「なんだかなァ人生」

なんだかなァ人生

なんだかなァ人生

とりあえず感想メモ。

創刊初期の少年ジャンプでデビュー、現在も漫画家として活躍している柳沢きみおの初エッセイ集。
週刊新潮に連載されているものをまとめたもの(2010年5月〜2011年4月)。

先月に創作論「終わりなき旅 僕はマンガをこう創ってきた」を読んだ村上もとかと同様、この人もデビューの頃からずっと漫画を読んできた人だ。

↓「終わりなき旅 僕はマンガをこう創ってきた」の感想メモ
http://d.hatena.ne.jp/allenda48/20120308/1331210044

大げさに言えば、自分の成長とともに漫画を読み続けてきた漫画家の一人ということになるかもしれない。柳沢きみおを読み続けたといっても、あんまり自慢にならない気もするが。

少年ジャンプでの初連載「女だらけ」、ジャンプから少年チャンピオンに移っての「月とすっぽん」、そして少年マガジンでの大ヒット作「翔んだカップル」と読んできた。その後、青年誌に移り、大量の連載をこなすようになってからもそれなりに読んでいた。「特命係長・只野仁」はちゃんと読んでいないが「大市民」はポツポツと読んでいた。

正直、漫画家としての画力はある方ではないと思う。
漫画を大量生産していた時期には、これはないんじゃないのという手抜きと思える絵もしばしばあった。
“絵”に対する強いこだわりは感じられる人ではなかったと思う。
“絵”よりはキャラクター設定、ストーリー展開で読ませる漫画家なのだろう。
だから、あの絵でも人気があり、長いキャリアを保っているのだろう。

そういう意味で、漫画好きの人はあまり評価していないような気がするが、私は結構、彼の漫画は好きだった。
程よい通俗性と品性を持つ親しみやすいキャラクターが、さまざまな境遇に置かれ、周囲と葛藤しながら生きていくストーリーという感じだろうか。

以前からどんな人かと気になっていて、時折出る著者のコメントには注意していた。
ジャンプ連載時には漫画家の先生紹介のコーナーで紹介されていたのを読んだおぼろげな記憶がある(もしかしたらチャンピオンかもしれない)。
ラガーシャツを着たヒゲ面の割とハンサムな青年の写真が載っていて「柳沢先生は高校時代ラグビーをやっていたスポーツマン。女きょうだいで育ってとてもやさしい人です」みたいなことが書いてあったような記憶がある。
この本を読んでラグビーなんてやっていなかったことがわかった。

ただ、この記憶はあまりに昔のことなので間違っているかもしれない。

で、今回のエッセイを読んだ感想だが、軽く読める読み物として楽しめた。

著者はもちろん「大市民」の主人公に通じる価値観の持ち主だが、このエッセイではあのような毅然としたキャラではない。
「自分はものすごく気が弱い人間です」とぼやき節で日々のこと、過去のことをつづっていく。

少年時代、家族、漫画家デビューのころ、好物の寿司、ギター、クラシックカー、借金のことなどが親しみやすい文体で書かれ、声を出して笑ってしまうような部分もあった。
文章を読んで声を出して笑ったなんあまりないので、そうすると相当面白かったということになるのかもしれない。
共感を持たせつつも、奇矯な行動をする、時には洞察力のあるところを示すといったエッセイの王道は踏まえた内容になっている。
面白い内容だったが、少し残念だったのが以前からの“オタク”とパソコンへの偏見。

この本で書いていたように拒絶していた回転寿司の魅力にも気付いたように、オタク、パソコンに対しても、ちょっと見方を変えて接すれば、著者の世界も広がり、さらに面白いものを書いてくれると思うのだが。

しかし、あれだけ量産してドラマ化されたものもあったのに貯金がゼロというのにはちょっと驚いた。
稼いでるときは年間億単位だったと思うのだが。
そのあたりの事情も書いている。

朝日新聞の書評欄に珍しく著者近影が載っていた。現在63歳。随分見た目が若い。以前の若いころ見た写真ではもっとタフそうな感じだった記憶があるが、この写真だとすごい繊細そうな人に見える。
http://book.asahi.com/reviews/column/2012041100004.html

この人、創作論も書いているようだ。
続けて読んでみたい。

→読みました。↓感想も書きました。

マンガの方法論1 おれ流 (コミック)

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http://d.hatena.ne.jp/allenda48/20120518