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見て読んで聴いて書く

映像、書物、音楽などについての感想

三浦しをん「格闘する者に○ 」 

格闘する者に○ (新潮文庫)

格闘する者に○ (新潮文庫)

よしながふみとの対談で、この人がものすごい漫画好きと知り、その語る内容に興味深いものを感じ、「まほろ駅前多田便利軒」を読んだ。
まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫)

まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫)

「まほろ駅前多田便利軒」を読んだ感想メモ

惹かれるものもあったので、このデビュー作を読んでみた。

デビュー作にしてむちゃくちゃうまいのでびっくりした。ともかく読みやすい。
冒頭にいきなり書かれてある大河小説の冒頭風の文章が、本編のある部分につながるところなど、構成についても面白いところがある。

書評のたぐいはまったく読んでいないので、この作品の評判がどのようなものかは知らない。

以下、簡単な感想メモ。

私はこの小説を読んでいて、設定、登場人物、セリフのやりとり、ストーリーのテイストから漫画をテキストに起こしたようなものを感じた。
特に「吉田秋生の日常系の漫画を小説化したような作品」という印象を抱いた。

これは悪い意味でなく褒め言葉としてである。非常に視覚的で鮮やかな文章だ。
神奈川の古い名家、母親違いの優秀でクールな弟、複雑な家庭環境、ちょっとヤクザめいた迫力のある父の側近などなど、
吉田の漫画に出てくるようなキャラクターが多数登場。
登場人物の動き、セリフのやりとりなども吉田の漫画を連想させるものがある、と私は思った。

ただ、きちんと分析してそう思ったのではない。
読みながら漫然と思っただけなので、強い根拠はない。
なんとなくの私の印象だ。
吉田秋生をイメージしたのは、もしかしたら私だけかもしれない。

ただ、文庫のあとがきで重松清が書いているように、この小説は吉田の代表作のひとつである「BANANA FISH」からのあるセリフを登場させている。
作者が吉田漫画のファンであったことは間違いはないようだ。

会話シーンなどもアクション→リアクションのやりとりで進める手法もデビュー作にしてはうまい。
作者は演劇専修科出身とのことなので、シナリオ形式の漫画原作を書くとか、漫画をシナリオ化して書く練習などをしていたのだろうか。
などと思った。

小説の筋としては、政治家である父の跡継ぎ騒動と並行して、早大第一文学部演劇専修科に通う主人公の就職活動を絡めて物語が進んでいく。

作者についてはウィキペディアを読んだ程度の知識しかない。
横浜雙葉を出て早大一文を出た漫画好きの女性のようだ。
自分の就職経験を反映したフィクションと思われる。

初々しい青春小説である。

ただ、「まほろ駅前多田便利軒」と同様、今作も邪悪な人、ものは登場しない。
ほかの作品ではどうなのだろう。
次に「風が強く吹いている」を読む予定だが、この作品もいい人ばかりのような気がする。

と、書いたがこの小説にはロクデモナない奴らが登場することを思い出した。
就職試験で主人公と面談するK談社の面接官である。
唾棄すべき人間という言葉がふさわしい男たちだ。
後で登場する集A社の好感のもてる面接官と対照的だ。

ここまで書くということは実体験と思えるが、ここまで書くのも度胸がある。
もう講談社から本を出したくないくらいの気にならなければ書けない内容だ。
なかなか強情なところもある人だと思った。
ただ、これはストーリーに絡むメインのキャラではない。
邪悪というより、どうでもいい人たちという感じだ。

邪悪なものがどう登場するかは、著作を続けて読んでいけばいずれわかってくるだろう。
気長に急がず著作を読んでいくことにする。

商品リンクを張ろうとして思ったのだが、この人の人気に驚いた。すごいブログの数だ。

草食系の代表作家というところなのだろうか。