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やなせたかし「人生なんて夢だけど」

人生なんて夢だけど

人生なんて夢だけど

2005年2月に発行された、やなせ先生の自伝。
この本で、やなせ先生の自伝・エッセイを読むのは6冊目となる。

冒頭に「本書は中日新聞東京新聞高知新聞に連載された自伝『この道』を一部加筆修正して単行本化したものです」の文字。

あとがきによると、1回につき400字詰め原稿用紙2枚半の連載だったそうだ。

すでに読んだ高知新聞連載エッセイ「オイドル絵っせい 人生、90歳からおもしろい!」の前に連載していたものと思われる。

今回は原稿用紙2枚半で1回分ということで、いつもにも増して文の書き方に特徴がある。
各文章のセンテンスは短い。そしてセンテンス2つくらいで文章は改行。
文末は“情けない”“なつかしい”などの言葉で締めて、読みやすくて頭に入りやすい文章として書かれている。
初の自伝「アンパンマンの遺書」もセンテンスは短く、改行は多かったが、それがさらに進んだ感じだ。

やなせ先生は、こういった連載をこなすことで短いセンテンスでテンポよく読みやすい文章を書く技術に磨きをかけていったように思えた。

この後に出たエッセイ「オイドル絵っせい 人生、90歳からおもしろい!」を読んで非常に感心したが、この本はあの領域に達するまでの過渡期といった感もあった。

書いてあることの多くはすでに知っていることが多かったが、同じことを何度も繰り返して書くことを避けようとする、やなせ先生の意図は伝わってきた。
今までに読んでいなかった、イギリス、ベルギーへの旅、奥さんが亡くなってからの状況などはこの本で初めて読んだ気がする。

個人的には、イギリスのナショナル・ポートレート・ギャラリーに「フランケンシュタイン」の作者であるメアリー・シェリーの肖像画を見るために訪れたあたりの話が面白かった。
フランケンシュタイン」はやなせ先生に大きな影響を与えた物語であることを再認識。

ほか、ルネ・マグリットに対して「一番自分の世界に近いと憧れた巨匠」と書いていることにも、なるほどと思った。