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チック・コリア『リターン・トゥ・フォーエヴァー』

リターン・トゥ・フォーエヴァー

リターン・トゥ・フォーエヴァー

今年になり、リターン・トゥ・フォーエヴァーの『浪漫の騎士』を初めて聴いて、そのロック的な音に驚いた。

↓『浪漫の騎士』の感想メモ。
http://d.hatena.ne.jp/allenda48/20120313/1331629783

実はこのバンドについては、この『リターン・トゥ・フォーエヴァー』と『ライト・アズ・ア・フェザー』しか聴いていなかったのだ。
初期の2つのアルバムで印象に残っていたのは、エレクトリック・ピアノと女性ボーカルを導入した透明感のある柔らかいサウンド、そして哲学的というか観念的な歌詞。

それが一体どうして『浪漫の騎士』でのイギリスのジャズ・ロックを思わせる音に変貌したのか興味を抱いた。
ということで、まとめて聴いてみようかと思った。

まず、ファーストのチック・コリア名義『リターン・トゥ・フォーエヴァー』を聴いてみた。
'72年に二ューヨークで録音。
マンフレート・アイヒャーのECMからリリースされたものだ。
ちなみにこのアルバムはジャズ・アルバムとしては大ヒット、初期ECMの財政において大きな助けとなったそうだ。ただ、このアルバムでバンドはECMからは離れた。

このアルバムを聴くのは10年ぶりくらいだと思う。
初めて聴いたのは高校生のことろだと思う。
リアル・タイムではない。
チックがこのアルバム以前に率いていたサークルというバンドの音は聴いていない。
(このバンド、バトルスのタイヨンダイ・ブラクストン父親アンソニー・ブラクストンが所属していたバンドだ)
資料などを読むと、サークルは“フリー・ジャズ”を演奏していたそうで、この『リターン・トゥ・フォーエヴァー』が親しみやすい歌もある、あまりに分かりやすい内容のため、旧来のファンからは「コマーシャリズムに走った」などと否定的に受け止められたらしい。
ライナーを読むと、チックはそれに対してこんなコメントを残している。

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一般の人はフリーというと、全く開放されて騒音というかケイオス(カオス)というか無茶苦茶なことをやるように誤解しているが、私はフリーという言葉は、美しきものへの選択、美しきものへの追求を目的としていると解釈している。
音楽的伝統を捨て去って自由なことをやろうという衝動はわかるが、彼らだってそういうものばかりに美の追求があると思っているわけではなく、レンブラントの古い絵をみて、美しいという感覚はもっている。リターン・トゥ・フォーエヴァーは私がハピネスとビューティーを追求する原点に立ち返ったという宣言なのだ。

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以下、久々に聴いての感想メモ。
ちょっと不安をあおるような音の展開もありつつ、心地よくひたるように聴けるアルバムだ。
“天上の音楽”とまで言うと、わざとらしいが、今聴いても透明感のある美しい曲だと思った。
ライナーノーツで大御所のジャズ評論家・油井正一がこんなことを書いていた。

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サークルというフリー・グループを持っていたころ、チック・コリアの表情はけわしかった。国境の長いトンネルを抜けて雪国に入ったさわやかさが、たしかにこのアルバムから感じられる。

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ブラジルのミュージシャンを迎えて、ラテン風味はありながらも風景は北国の透明な空気感。
私にとっては、この感じがこのアルバムの魅力だったといえるのかもしれない。

サウンドもエレピ以外はアコースティック楽器なので古さは感じない。
2012年の現在、初めて聴いた人にも十分に魅力的な音楽だと思う。


続けて『ライト・アズ・ア・フェザー』についても感想を書くことにする。