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リターン・トゥ・フォーエヴァー『第7銀河の讃歌』

第7銀河の讃歌

第7銀河の讃歌

チック・コリア率いるリターン・トゥ・フォーエヴァー3枚目の作品。
'73年、ニューヨークのスタジオ、レコード・プラントで録音。

第2作『タッチ・アズ・ア・フェザー』発表後、チック・コリアスタンリー・クラーク以外のメンバーは全員抜けた。
そしてちょっとした変遷を経て、このアルバムのクレジットでは
・ビル・コナーズ(ギター)
レニー・ホワイト(ドラム、パーカッション)
が加わった4人編成となっている。

そして、アルバム・ジャケットも変貌を遂げた。
1作目「リターン・トゥ・フォーエヴァー」は海辺を飛ぶカモメの写真。
リターン・トゥ・フォーエヴァー
2作目「ライト・アズ・ア・フェザー」は濃い青色をバックに1枚の羽が浮かんでいる写真。
Light As a Feather
それぞれ美しい写真だった。
それが今作になるとメンバーの顔がカモメに張り付き、天空を舞っている!
Hymn of the 7th Galaxy
イラストを使うことは自体は悪くないが、これはちょっと……。
クレジットを見るとアルバム・デザイン担当がネヴィル・ポッター。
今まで歌詞を担当してきた人だ。
アート・ワークがドン・ブローティガンという人になっている。

今回、歌はなかったのでチックの友人ポッターはデザインに関わったということなのだろうか。
ポッターは新宗教サイエントロジーの信奉者で、チックもサイエントロジーに傾倒していたとのことだ。
この奇妙なジャケット、そして『第7銀河への讃歌(Hymn of the Seventh Galaxy)』という意味不明のタイトルは、サイエントロジーの思想に関わるものなのかもしれない。
曲タイトルも宇宙的で意味不明だ。

1. 第7銀河の讃歌(Hymn of the Seventh Galaxy)
2. アフター・ザ・コズミック・レイン(After the Cosmic Rain)
3. キャプテン・セニョール・マウス(Captain Señor Mouse)
4. 母船のテーマ(Theme to the Mothership)
5. スペイス・サーカス (パートI&パートII) (Space Circus, Part I & II)
6. ゲイム・メイカー(The Game Maker)

サイエントロジーの創設者L・ロン・ハバードはSF作家だったが、このアルバムの曲名はいかにもSF的である。
しかし“第7銀河”?“キャプテン・セニョール・マウス”?
7つ目の銀河を目指してネズミの船長が宇宙船を駆る話なのだろうか?
ミスターでなく、セニョールというのが変なところでもラテンで妙な味を出している。
このアルバムの謎は深い。


で、以下は今回初めて聴いた『第7銀河への讃歌』の音についての感想メモ。

第1期(ファースト、セカンド・アルバム)の音楽から比べると、一体どうしてこうなったのか、と思えるようなサウンドが展開。
いきなり血中にアドレナリンが放出されまくり状態の音楽だ。
怒涛の前のめりサウンドにファースト、セカンドの音を期待していた当時のファンは、おそらく度肝を抜かれたはず。
ロック的、しかもある種“パンク的”ともいえる衝動的で荒々しい音楽だ。

各プレイヤーのテクニックは素晴らしい。
だが、私の聴いた印象は、気持ちははやるが、体が追いついていかない状態の音楽という感じ。
こなれてないという印象。だがそこがいい。

また突拍子のない曲の展開も衝撃的だ。
特に「キャプテン・セニョール・マウス=ネズミ船長」ときたら聴いていて思わず笑ってしまうくらいめまぐるしい展開である。
のっけから前のめりの荒々しいリズムセクションにテーマフレーズが乗り、音楽が疾走。シリアスな展開と思ったら、突然リズムチェンジ、♪タラララ〜ララ〜ララ♪ というメロディーにチャカポコチャカポコとパーカッションが絡むラテンの能天気な展開に。以降、シリアスと能天気なリズムがめまぐるしく行き来して、さらにはファーストアルバムを彷彿させるエレピの響きも鳴り響き、さらに〜、という「こりゃなんだ」的な曲。それがものすごい高揚感をともなって展開していく。

私は不自然なほどめまぐるしい曲展開のプログレはよく聴いてきたが、この「ネズミ船長」の展開には驚いた。
ただ、この曲、何度も聴いていると癖になる。
今はかなりお気に入りの曲だ。
これを当時のライブでぜひ聴いてみたかった!


『浪漫の騎士』のような尋常でないテクニックによる手馴れたジャズ・ロックより、私は破綻を恐れず勢いで突っ走っているようなこのアルバムのほうが、演奏者の喜びが伝わってくるようで聴いていて気分も高揚するし楽しい。
このアルバムはとても気に入ったので、これからも聴いていくような気がする。
聴くと元気の出るアルバムだ。

ただ、このハイテンションはやはりドラッグによるものではないだろうかという気もしてきた。
高揚感を誘うアッパー系のドラッグとサイエントロジーの思想が交じり、創作意欲が異常に高まり、その結果生まれた快作(怪作)なのかもしれない。
↓追記
サイエントロジーは反ドラッグの宗教でした。

しかし、リターン・トゥ・フォーエヴァーがこんなに面白バンドとは知らなかった。
もっと早くから聴いていればよかった。

あと音についてちょっと気になった点。
アマゾンのレビューにあったように、再生される音についてはダイナミズムに欠けるところがあるように思えた。
ロック系のエンジニアが手がければもっと聴き応えのあるアルバムになったような気がする。

続けて『銀河の輝映』も聞いているので、追ってそちらの感想も書くことにする。