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リターン・トゥ・フォーエヴァー『ミュージックマジック』

リターン・トゥ・フォーエヴァー(以降RTFと表記)の7作目。
最後のスタジオ録音アルバム。
これで制作順に彼らのスタジオ・アルバム全てを聴いたことになる。

このアルバムは今回初めて聴いた。
このときのRTFは、第3期に位置するバンド形態と捉えられているようだ。バンドの公式ページでも以下のようになっていた。
http://return2forever.com/discography/

第1期 1971-1973: The Latin Influence(ラテンの影響) スタジオ第1、2作
第2期 1974 – 1977: The Electric Quartet(電気4人組) スタジオ第3、4、5、6作
第3期 1977 – 1978: The Big Band(ビッグバンド) スタジオ第7作
第4期 2011: The Electric Quintet(電気5人組) スタジオ作なし。
※第4期はジャン・リュック・ポンティ(バイオリン)とフランク・ギャンバレ(ギター)が新たに加わったクインテット(5人編成)となっている。アルバムはライブの『マザーシップ・リターンズ』。

で、今作『ミュージックマジック』について。
'77年、コロラド州カリブー・ランチで録音。
前作『浪漫の騎士』からニューヨーク・レコードプラントを離れ、このスタジオで録音している。
このスタジオはブラス・ロックのバンドで成功したプロデューサー・マネジャーのジェイムズ・ウィリアム・ガルシオが建設したもので、シカゴがガルシオと決別するまではここでレコーディングしていた。

私が手にしたCDには、小川隆夫氏によるライナーノーツが掲載されていた。
チック・コリアのコメントも多く載っている。
アルバム、そしてRTFのバンド・コンセプトの理解に役立つことが多く書かれてあった。
チックによると、RTFが追求していたものは、
“明快なメロディーライン、躍動感溢れるリズム、そしてグループが一体となったサウンド、つまりグループ・サウンド”だったそうだ。
そして、彼がRTFの前に結成していたバンド・サークルでは、各自が演奏することに夢中でバンド・サウンドまで意識がいかなかったと語っている。

ライナーには以下のように書かれてある。引用させていただく。
バンドのコンセプトといっていいものだと思う。

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リターン・トゥ・フォーエヴァー”――すなわち“永遠への回帰”というのは、チックがサイエントロジーで学んだひとつの理想的な状況を意味している。「ぼくたちは常に巡り巡っているんだ。輪廻と言うか、グルグル回っていつかは理想郷に到達する。そのことを意味する言葉がリターン・トゥ・フォーエヴァーという訳だよ」
©WINGS911227:小川隆夫/OGAWA TAKAO

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ちなみにサークルというバンド名からも、そのコンセプトは感じることができる。

このライナーには「'76年に『浪漫の騎士』を吹き込んでグループは解散したんだ」というチックのコメントがある。
やるべきことはやったという認識だったのだろう。
だが、契約上の理由などもあり、「ブラスを加えてリターン・トゥ・フォーエヴァーの拡大版をやる」ことになったそうだ。

そう書くとおまけのアルバムのように思える。
だが、このアルバムはRTFのスタジオ最終盤にふさわしい、素晴らしい内容になっている。

ただ、ちょっと聴いただけではつかみどころのない音楽だ。
実は私の耳ではすぐに咀嚼・理解できなかった。
10回ほど通してきいてそのよさがわかってきたくらいである。

第1期の音楽をビッグバンドでやったようなもの、みたいな紹介のされかたをしているときがあるが、とんでもない説明だと思う。
このアルバムは魔法のような曲集である。
楽典的な分析が私にはできないので、印象論になってしまうのだが、ジャケットのイラストどおりに、ミュージシャンの吹くラッパから、次々とさまざまな不思議な植物、生き物が生まれ出てくるという感じだ。
「ミュージック・マジック」というタイトルにふさわしい内容だと思う。
豊かで有機的で不思議で聞く者の心を動かす何かがある。

今回は、今まで作詞やジャケットのコンセプトなどでRTFに関わってきたサイエントロジーの詩人ネヴィル・ポッターのクレジットはない。
作詞はチック自身と、彼の妻でミュージシャンでもあるゲイル・モラン、そして歌も披露しているスタンリー・クラークが担当している。
スタンリーの作詞による「ハロー・アゲイン」の歌詞を見ると、彼もチックと近親性のある意識を持ってRTFに参加していたことがよくわかる。
RTFは結果的にはチックのプロジェクトというより、チックとスタンリー2人のプロジェクトになったといっていいのだろう。
ネヴィルに代わり、サイエントロジーの創始者L・ロン・ハバードへの感謝の言葉がクレジットにある。

このアルバムについては思うところは色々あるのだが、まだまとまらないのでこのあたりにしておく。

今は第3期のメンバーによる『ザ・コンプリート・コンサート』を聴いている。
これがまた素晴らしい内容である。どこが素晴らしいのかこれまた説明が難しいのだが。
音楽を聴く喜びみたいなものを再認識させてくれる内容だ。
このライブ盤が'70年代に大きな足跡(今頃気付いたのですが)を残したRTFのラスト・アルバムである。と私は思う。
マハヴィシュヌ・オーケストラウェザー・リポートもここまで辿りつかなかった(全作聴いてないのでちょっと自信がないが)。

電車の中で聴くのでなく、それなりにリラックスできる場所で聴くほうがいい音楽。
CD3枚を通して聴くとひとつの旅を終えたような気分になる。
このライブ盤に近いものとして浮かぶのはエバーハルト・ウェーバーの『ステージズ・オブ・ア・ロング・ジャーニー』だろうか。

ステージズ・オブ・ア・ロング・ジャーニー

ステージズ・オブ・ア・ロング・ジャーニー

RTF以前にチックが組んでいたバンド・サークル、チックの当時のソロ『妖精』『マイ・スパニッシュ・ハート』『マッド・ハッター』などなど聴きたいものが増えてきた。
まだまだRTF関連は聴いていきたい。



ちなみに私はこの第3期の『ミュージック・マジック』を聴いて私はフランスのバンド・マグマを思い出した。
『メルシー』以降のホーンを導入したサウンドには、かなり“近い”ものがあると思うのだが。
こう思ったのは私だけだろうか。

スタジオ盤のジャケットを並べる。各作品バラバラな見た目だが、全作を通して聴いてみるとアルバムの内容を反映していて興味深い。
リターン・トゥ・フォーエヴァーライト・アズ・ア・フェザー第7銀河の讃歌銀河の輝映No Mystery浪漫の騎士(紙ジャケット仕様)ミュージックマジック(紙ジャケット仕様)