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映像、書物、音楽などについての感想

アメリカのさまざまな理系少年少女を追ったジュディ・ダットンのノンフィクション「理系の子 高校生科学オリンピックの青春」

理系の子―高校生科学オリンピックの青春

理系の子―高校生科学オリンピックの青春

週刊文春0517号の書評を読み興味をもった。
http://d.hatena.ne.jp/allenda48/20120520/1337531763

読んでみたのだが、非常に興味深く、感動させられるエピソードのあるノンフィクションだった。

タイトルに“高校生科学オリンピック”という言葉があるが、「国際科学オリンピック」のことではない。
日本翻訳版を出す際、読者にアピールするためにつけた題と思われる。ちょっとまぎらわしい。

↓科学オリンピックのサイト
http://www.jsoc-info.jp/03soc/soc.htm


原題は「Science Fair Season(サイエンス・フェアの季節)」。
“サイエンス・フェア”とはアメリカで盛んに行なわれている科学教育イベントとのこと。
中高生が、科学の自由研究をイベント会場に出品し、その評価を競うコンテストのことだ。

アメリカの各州でさまざまなサイエンス・フェアが開催されているが、その頂点に位置するのがインテルがスポンサーとなっている「インテル国際学生科学フェア(Intel International Science and Engineering Fair 略してISEF)。
ISEFには世界中の高校生の研究が出品されるが、出場するにはISEFが認定する各国でのサイエンス・フェアに勝ち抜かなければならない。
つまり予選のサイエンス・フェアを勝ち抜いた世界の精鋭が、毎年の5月にアメリカのISEFに出場できる。

このノンフィクションは2009年のISEFに出場した6人の少年少女に取材、さらに過去の伝説となっている出場者たちにも取材したもの。

この選ばれた6人の生い立ち、研究がバラエティに富んでいる。そして驚くほどドラマチックだ。

(1)世界で31番目となるミニ核融合炉を作って展示したテイラー・ウィルソン
(2)かつては恐ろしい病と忌み嫌われたハンセン病に感染、完治したが、いまだに残る偏見を知り、今やハンセン病が治る病であることを伝える研究発表をしたエリザベス・ブランチャード
(3)牧場を営む父が重い病に侵されている状況の中、ウマの世話をし、ウマによるホースセラピーを各地で行い、その成果をレポートとして発表したキャトリン・ホーニグ
(4)家庭が崩壊、劣悪な環境の中でAMES(数学・工学・科学アカデミー)に通っていたが、ISEFに出場したことで大学進学の夢をかなえたセイラ・ニイツマ。AMESとは、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団が低所得者少数民族の大学進学への門戸を開くために全米に200以上設立した学校の一つ。
(5)モデル、子役として芸能界で活躍していたがミツバチの生態研究でISEFに出場したイライザ・マクニット
(6)ハーヴァード・ビジネス・スクールを卒業、J・P・モルガンでエクゼクティブとなった両親を持つが、9.11テロのショックで両親が田舎暮らしを志向。ウィスコンシン州の田舎農場に引越し、自宅で母親の教育を受け、その後14歳にしてウィスコンシン大学教授の助手、さらにはパートナーとしてナノテクノロジーの分野でさまざまな特許を取得、さまざまなサイエンス・フェアで総額10万ドルを超える賞金を得たフィリップ・ストライク。ハーヴァードに進学(飛び級ということなのだろう)して第2のビル・ゲイツと言われている。

さらにこの6人の章の間に過去のサイエンス・フェアで目覚ましい経歴を残した5人(組)を紹介する。

(A)ナヴァホ族の末裔でトレーラーハウスで暮らし、冬の寒さに喘息で苦しむ妹のため、ラジエター、空き缶などの廃品を組み合わせて太陽光エネルギーを使った暖房機・湯沸かし器を作り上げたギャレット・ヤジー
(B)少年矯正施設の過酷な環境の中、意欲的な理科教師の指導によりサイエンス・フェアで高い評価を得て、アリゾナ州立大学への全額支給奨学金を得たロイド・ジョーンズ。さらにISEFへの出場を成し遂げたオーリー・オドリゲス
(C)デュポン社の“企業城下町”で生まれ育ったが、デュポン社への気兼ねをものともせず、同社の流す有害物質の浄化方法を研究・発表したケリードラ・ウィルカー
(D)あまりに高い知性から周囲になじめずいたが、老物理学者との交流を経て、さまざまな発明をなし、サイエンス・フェアでの活躍で「セブンティーン」誌でその夏の最高の少年に選ばれるなど天才少年として全米のスターとなったライアン・パターソン
(E)自閉症のいとことのピアノの音を使った交流をきっかけに、独自の教育プログラムを研究、大きな成果を収めたケイラ・コーナール

それぞれのエピソードは1本の映画にもなりえるほどドラマチックだ。
例えばNASAの技術者となったホーマー・ヒッカムJr.の伝記的映画「遠い空の向こうに」のように。

遠い空の向こうに [DVD]

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そして心を動かされたのが、恵まれない環境の中にいながら高い知性と向上心を持つ少年・少女がサイエンス・フェアでの成果によって、大学進学を果たし夢に向けて進むことができたということ。
その点には感動してしまった。

ただ、ハッピーエンドでない例もある。
(B)の少年矯正施設を舞台にしたエピソードではロイド・ジョーンズは大学には進学するが結局馴染めずに退学。オーリー・オドリゲスはISEFに出場という快挙を成し遂げたが、矯正施設に戻ると以前のように荒れた生活を送るようになり、釈放後どうなったかは指導教員もわからないという。美談、サクセス・ストーリーが並ぶ中で現実の重さを感じさせるエピソードだった。

日本版の巻末には、日本人で2011年のISEFに出場した千葉高校2年生女性の特別寄稿も載っている。


日本でのISEF提携フェアは以下の2つとのこと。
日本学生科学賞
http://event.yomiuri.co.jp/jssa/

◆高校生科学技術チャレンジ
http://contest.jst.go.jp/jsec/index.html

※この書籍については成毛眞のブログにも詳しく書かれてある。
http://d.hatena.ne.jp/founder/20120328/1332897522

※(1)のミニ核融合炉の話は知識がないので今ひとつピンとこなかったが、こういうものがあるということは、かつて立花隆が言っていた家庭用“ミニ原子炉”(放射能の問題があるのでもしくはミニ核融合炉)というものは製作・運用可能ということなのだろうか? この本でのミニ核融合炉はフィロ・ファーンズワース フューザーというものについてのようだ。ウィキペディアでは動力化は現状難しいと書いてある。理論的なことは私にはわかりません。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AD%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%82%BA%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%B9_%E3%83%95%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B6%E3%83%BC

小学校4年の娘にプレゼントしたら、熱心に読んでとても面白かったと言っていた。
理解できないところはあったとは思うが…
小学生でも読書好きの子なら読める本だと思う。