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映像、書物、音楽などについての感想

ショーン・ペン主演、パオロ・ソレンティーノ監督の映画「きっと ここが帰る場所」

週刊文春の映画採点表を見て興味を抱いていた映画。
アメイジングスパイダーマン」と同時に採点されていたが、「アメイジング〜」が25点満点で20点。こちらは19点だった。
http://d.hatena.ne.jp/allenda48/20120701/1341156364

ショーン・ペンが伝説のロックスターを演じ、ユダヤ人だった父が復讐を誓っていた元ナチスSS隊員を探すというロードムービー。と理解したうえで見た。

原題は「This Must Be the Place」
実はこのタイトルは、’83年に発表されたトーキーング・ヘッズの『スピーキング・イン・タングズ』のラストに収録されていた同名曲から取られている。

私はトーキング・ヘッズ、デビッド・バーンはそれほど好きではない(もちろん嫌いではない)のだが、このアルバムはリアル・タイムで聴いていた。
“アフリカン・ビートの導入”で大そうな話題になった『リメイン・イン・ライト』の次のアルバムだった。
リメイン・イン・ライト<紙ジャケットSHM-CD>

リメイン・イン・ライト<紙ジャケットSHM-CD>

この曲「ジズ・マスト・ビー・ザ・プレイス」は作品の中で何度も流れる。デビッド・バーン(本人)が劇中のライブ・ステージでこの曲を披露、さらに子役がショーン・ペン演じる伝説のロックスター・シャイアンのギターに合わせてこの曲を歌うというシーンもある。
子供が「アーケード・ファイアの『ジズ・マスト・ビー・ザ・プレイス』を演ってよ」とねだるのに驚いた。アーケイド・ファイアがこの曲のカバーを演っているからだが、10歳くらいの子供がアーケイド・ファイアを知っているのかと意外だったからだ。グラミー賞は取っているが、ここまで有名なのかどうか。
アメリカ人にとってアーケイド・ファイアがどの程度知名度があるバンドかわからない私にはこのシーン、どう受け取っていいのかわからなかった。

映画の音楽担当はデビッド・バーンとウィル・オールダム(私はこの人は知りませんでした)。

映画を見ると、主人公のシャイアンは’80年代前半に活躍していたニュー・ウェイブのバンドのメンバーという設定のようだ。
主人公のメークと「暗い曲ばかりを演っていた」という趣旨のセリフからすると、ゴシック系のバンドと思われる。見た目からするイメージとしては、ザ・キュアーロバート・スミスという感じだろうか。シャイアンの友人である若い女性(U2のボノの娘が演じている)の部屋にはバンド、バウハウスのロゴステッカーらしきものが見えたような気もした。

で、内容に関しての感想メモ。

マキノ雅弘の言っていた映画の3大要素「スジ(脚本)、ヌケ(映像)、ドウサ(俳優の演技)」でこの映画を評価するなら、

◆ヌケ(映像)については構図、色彩、映像の流れなどには監督の強い美意識を感じた。それぞれのカットは凝っている。見ていて、いい感じの映像である。ロードムービーでもあるので、さまざまなロケーションの映像があり見ていて飽きることがない。

◆ドウサ(俳優の演技)については、ともかく化粧をしたショーン・ペンの雰囲気、表情、語り、動き、その妙な面白さにつきる。小さな声でボソボソとしゃべり、カートを引っ張って歩く。ほかの人間とのやりとりの、どこかズレた感じも好ましく見ていて飽きない。ちなみにショーン・ペン演じる主人公の妻役はフランシス・マクドーマンドアカデミー賞主演賞を取った2人が夫婦を演じているという映画でもある。

◆問題なのがスジ(物語、脚本)。これは確信をもってやっているのだと思うが、“何が何をしてどうなる”という、因果関係に基づく物語のメリハリはほとんどない。
登場人物の行動を裏付ける説明も非常に少ない。
ログライン自体は以下の

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伝説のロックスターが、ユダヤ人だった父が復讐を誓っていた元ナチスSS隊員を探す

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というもので、興味を引かれるものになっているが、実際に見てみるとドラマ性は希薄だ。

映画の場合、大きく分けて“ドラマ”に基づいてメリハリのきいた物語を構築するタイプと、造られた“ドラマ”性よりは、映像での描写に力を入れる映画の2つのタイプがあると思う。大雑把にいえばハリウッド映画が前者でヨーロッパ映画が後者といってもいいと思う。もっとおおざっぱに言えば商業系映画と芸術系映画といってもいいかもしれない。

この映画は明らかに後者の映画である。
ただ、見ていて退屈することはない。
それはヌケとドウサの部分に魅力があるからだろう。
ただ、スジが商業映画としては弱いので、一般的に誰が見ても面白い思う映画ではないと思う。

松本人志に見てほしい映画である。