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映像、書物、音楽などについての感想

貴志祐介の小説「悪の教典」

書籍 小説

悪の教典〈上〉 (文春文庫)

悪の教典〈上〉 (文春文庫)

悪の教典〈下〉 (文春文庫)

悪の教典〈下〉 (文春文庫)

新世界より」を読み、さほど間隔をおかずこの本を読んだ。

「新世界より」を読んだ感想メモ

こちらも上下巻トータル800ページ以上という大作。
だがさらに読みやすく、あっという間に読み終えてしまった。

以下、雑然とした感想メモ。

新世界より」は現在から遠く隔たれた1000年後の世界が舞台だったが、こちらは対照的に現代の東京の郊外の高校という、“日常の世界”が舞台。
日常から物語を紡ぎ、“大殺戮”の非日常に到るバターンの作品だ。

主人公は東京町田市にある私立高校の英語教師。
生徒に慕われ、同僚、上司からも信望は厚い。
だが、その正体は他者との“共感性”に欠ける“感情障害者”の殺人鬼。
そんな主人公が、諸事情のため文化祭の準備で学校に泊り込んでいる生徒全員を一晩で殺害する羽目になるという話である。

前半、主人公の日常の行動を追いながら、クラスの生徒、教師を紹介していく手際が見事だ。ちょっとしたエピソードを作り、差別化をきっちり行ってしっかりキャラを立て物語を進めていく。かなりの人数だが、きっちりこなしている。
初めは主人公を通常の人間に近いスタンスで描写しているが、徐々にその教師の特殊性・異常性・優秀さを顕にさせる情報の小出しの仕方もうまい。

さらに、
生徒全員を殺戮するという長丁場のシーンもさほどだれることなく描ききっている。

個人的には「新世界より」の方が好みだが、ミステリー好きでない私も楽しめた。
あ、ミステリーではないのかな。サイコ・ホラーとかいうのだろうか?

主人公の他者への“共感”に欠けるということが、脳医学、心理学とかでどのような障害になるのかはこの小説を読んだだけではいまひとつよくわからなかつた。

以下、音楽について。
殺人鬼である主人公が「モリタート」を口笛で吹くというアイデアが作品の隠し味となっている。この曲はクルト・ワイル作曲によるブレヒトの音楽劇「三文オペラ」の劇中歌。小説中でも書かれているように「マック・ザ・ナイフ」としてジャズの分野の人にカバーされて有名だ。
明るくも奇妙な味わいのあるメロディーとブレヒトの鮮烈な歌詞が印象に残る名曲だ。
この曲を知っている人か知らないかで、意外と作品の読んでいるときの印象が変わってくると思う。

わたしはアルバム『クルト・ワイルの世界 星空に迷い込んだ男』でクルト・ワイルのことを知った。

Music of Kurt Weill

Music of Kurt Weill

エルビス・コステロルー・リードカーラ・ブレイなどの有名ミュージシャンがクルト・ワイルの曲をカバーしたオムニバスだ。
このアルバムではスティングが「マック・ザ・ナイフ」を歌っている。
その後、クルト・ワイル夫人のロッテ・レーニア、元ヘンリー・カウのダグマ・クラウゼが歌うクルト・ワイルの曲集はよく聴くこととなった。



しかし、クルト・ワイルの「モリタート」を隠し味にするとは、この作家、かなり音楽好きなのではと思われる。

さらに「悪の教典」や「クリムゾンの迷宮」というタイトルから、著者はプログレが好きなのではと思っていたが、当たっているようだ。

この小説では高校生のバンドが、なぜかエマーソン・レイク&パーマーの「悪の教典♯9」を演奏しようとするシーンが登場する。
演奏しようとしたところで殺されてしまうのだが。

ちなみにELPのこの曲の原題は「Karn Evil 9」。本の表紙にある“Lesson of the evil”とは違っている。
KarnはCarnivalを省略したエキゾチック異表記らしい。
悪の教典」ならぬ、「悪の祭典」といったところか。
この曲、歌詞がまたこの小説の内容とかぶるところもあり面白いのだ。
特にかつてのLPのB面から始まる「悪の教典#9-第一印象パート2」が。
こんな歌詞である。

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Welcome back my friends to the show that never ends
We're so glad you could attend, come inside, come inside
There behind a glass stands a real blade of grass
Be careful as you pass,.move along, move along

Come inside, the show's about to start
Guaranteed to blow your head apart
Rest assured you'll get your money's worth
Greatest show in Heaven, Hell or Earth
You've got to see the show, it's a dynamo
You've got to see the show, it's rock and roll, oh

                                                                                                                                          • -

これからショーが始まるというところとか結構、小説の内容と呼応していたりする。


一応、書いておくと、この曲はアルバム『恐怖の頭脳改革』に収録されているELPの代表曲のひとつ。アマゾンで「悪の教典」も視聴できる。

恐怖の頭脳改革+3(紙ジャケット仕様)

恐怖の頭脳改革+3(紙ジャケット仕様)

↑ジャケット原画はもちろんH・R・ギーガー

話を小説に戻す。
この高校生のバンド、ドリーム・シアターを文化祭で演奏するという設定になっている。
とすると、この著者、ラッシュとかが好きそうである。もちろんイギリスのLushでなく、カナダのRushである。

文化祭で演奏するのをELPでなくドリーム・シアターにしたところに、配慮は感じたが、実際、高校生のあいだでドリーム・シアターは人気あるのだろうか。

などと小説の内容とはあまり関係ないことにも思いをめぐらせてしまった。

ネットで「悪の教典#9」を検索したら
初音ミクカバー】karn evil 9 というのがあった。
ギターメインでちゃんとカバーしているので感心した。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm14723867


ものすごく話がそれた雑然とした感想メモだが、今後推敲・更新はしないような気がする。

映画のほうは三池崇史監督なので、かなりテイストは予想できる気がする。
脚本・三池というのがちょっと気になるが。