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伊坂幸太郎「魔王」

魔王

魔王

伊坂幸太郎はデビュー作「オーデュボンの祈り」「ゴールデンスランバー」は読んでいる。
正直、自分の中での“読みたい順位”では高い位置にいる作家ではない。
だが、嫌いというわけでもなく、ちょっと惹かれるところもある作家だ。

図書館の返却棚にあるのを見て、久しぶりに読んでみることにした。
2005年10月に発行されたもので、雑誌に発表された中編「魔王」「呼吸」の2話構成だった。

子供のときに交通事故で家族を失った兄弟2人が主人公。「魔王」は兄、「呼吸」は弟が主人公である。
兄は論理的で弟は感覚的。タイプは違うが2人は深い絆で結ばれている。2人とも草食系という印象。

小説のバックグラウンドとしてはこんな時代設定。
経済、政治さまざまなものが低迷する趨勢のなか、“力”を志向することで“大衆”を魅了しつつある若手政治家が脚光を浴びてきている。

兄は、その政治家の台頭に不穏なもの“ファシズム”を予感する。
奇妙な使命感に駆られた兄は、自分が身に着けたある特殊な能力を使い、政治家の演説を妨害しようとするが、なぜか演説現場で倒れて死亡する。
これが「魔王」

「呼吸」はその弟の話。
猛禽類のテリトリー観察を職業としている弟は、自分が兄の死後、ある能力を得たことに気づく。弟は、兄と違うその能力を使うことで、“兄の遺志”を遂げることを決意、じっくりと計画を進めていく。
こんな感じだろうか。

不穏な雰囲気、“ファシズム”の立ち上がる序章めいたものを描き、思わせぶりに物語は進むが、あいまいなまま物語は終わる。

“魔王”という大仰なタイトルに反して、読み終わった後に釈然としない思いの残る、なんとも中途半端な小説だった。

雰囲気はそれなりにあったと思う。
ただ踏み込んでいないので、そこが良くも悪くも読んでいてもどかしい。

商品としては中途半端と思えるこのような作品を発表できているということは、この作家はかなりの支持を得ているのだろう。
ブログの数も多い。
しかもこの小説、漫画化もされている。

文庫版のあとがきを読むと、2008年に出た「モダンタイムス」という長編がこの作品の続編的な内容らしい。
すごく読んでみたいというわけではない。
だが、このままではあまりに中途半端なので、読んでみることにする。
そちらを読んでから、またこの小説について考えてみることにする。
正直、ほかに読むべき(読みたい)ものも多くあるので、あまり気乗りはしないのだが、読み始めると最後まで読みきらないと納得できない性分なので……

モダンタイムス (Morning NOVELS)

モダンタイムス (Morning NOVELS)

「モダンタイムス」読みました。
↓感想メモ。
http://d.hatena.ne.jp/allenda48/20121109/1352458838