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映像、書物、音楽などについての感想

武富健治の漫画「鈴木先生」

鈴木先生 (1) (ACTION COMICS)

鈴木先生 (1) (ACTION COMICS)

2005年から不定期で「漫画アクション」に連載されていた漫画。文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀を受賞している。テレビドラマ化、映画化もされたので、どのようなものかと思い読んでみることにした。全12巻になるので、お試しとして1巻読んでみた。

個人的には受け入れられない漫画だった。1巻だけにしてよかったと思った。
ここまで酷いと思った漫画は珍しい。
正直、倫理的・感覚的に私には受け入れられないし、私には鈴木先生が“気持ち悪い”。

文化庁の優秀賞を受賞していることが信じられない。

以下、この巻でのエピソードと私が感じたことをメモにして残す。

この漫画、公立中学校2年の若い男性教師が、担任するクラスのさまざまな問題に直面、解決していくという感じの話である。

1巻に収録されているのは
「げりみそ」「酢豚」「教育的指導」の3つのエピソード。

「げりみそ」は、給食の時間になると向かい合って食事をすることになる隣の女生徒に対して、カレーが出ると“げりみそ”というような汚い言葉を連発する“優等生”についての話。
何で汚い言葉を連発するかというと、向かい合って食事をする隣席の女生徒が、左手を机の上に置かず、机の下にダランと下げていることが耐え切れずに、相手が嫌がる汚い言葉を連発していたというオチ。
マナーのなってない食べ方をしているのが耐えられないからといって汚い言葉を連発するこの“優等生”の行動は、反応として奇妙なものであることは間違いない。

鈴木先生はこの優等生に共感、理由を知ったときに、自分にあった経験を思い出し涙を流したりする。読んでいて非常に違和感を覚えた。

不快な言葉で食事中に嫌な思いをさせられた相手に対する配慮はなにもない。
加害者の謎解きができただけで満足している鈴木先生である。

この教師、他者に対する配慮が欠けている。
鈴木先生(そしてこの漫画を描いた作者)のものごとに対する視野の狭さ、独善性を感じ、読んでいてあまりいい気分がしなかった。

「酢豚」は酢豚好きの女生徒が、給食から酢豚のメニューが外されることで騒いだことから、酢豚存続かどうかで生徒の投票が行われるという話。この内容についての感想はここでは省く。

「教育的指導」がちょっと許せないものを感じたエピソードだ。
鈴木先生の担任クラスの生徒が小学校4年の女子児童と性関係をもったことについての話。
ここでは法律的に違法行為であることについての私の意見は省く。
気になったのが、「げりみそ」と同様、鈴木先生の問題に対する際の安易な理解・共感と視野の狭さだ。
はっきりいって教師として大いに問題があると思う。

鈴木先生は相手の小学校4年の生徒とは面識がない。特に彼女についての情報を集めているわけでもない。小学校4年にしてセックスをした女性が、どの程度成熟しているのかを確認していないのだ。
それでいながら、問題を起こした生徒、小学生の母親に
「セックスの許される基準は実年齢にはなく、精神年齢にあると思っているということです」
などと滔々と語っている。

私はこんな先生は絶対信用しない。

また、中学2年生が小学校4年生とセックスすることを違和感なく書けるという作者の、倫理感、肉体的成熟に関する知識のなさ、未調査ぶりは“許しがたい”といっていいと思う。

小学校4年の女子にとって、さかりのついた中学2年男子の性の相手をするということが、和姦にしても、どの程度の肉体的・精神的負担になるのかということに関して全く配慮していない。
「げりみそ」のときもそうだったが、自分が問題を引き受けている一方に対してのみ配慮し、相手方がどうダメージを受けているかということにまったく想像力を働かせていない。

“ポケットにコンドーム”という描写があったので、その児童は生理を迎えているということになるのだろう。
生理が来ていないのにコンドームを使うことは違和感がある(断言はできないが)。
ただ小学校4年で生理を迎えるのはかなり早熟な子である。
おそらくそのあたりも作者は知らないのではないのだろうか。
多分、特に何も考えずにコンドームの描写を使ったのだと思う。
親にバレるきっかけの小道具として。

そしていかに、変わった環境で暮らしていても、
小学校4年の女子が日常的に性交渉をしているということは想像しずらい。
これは小学校4年の娘の父親である私の感想だ。

「げりみそ」も酷いが、この「教育的指導」というエピソード、酷すぎる。


こんな漫画が流布することで、変な悪影響があることまで心配してしまう。


作者の独りよがりの世界観に付き合う気には到底なれないので、2巻以降を読むことはやめた。

世評は高いようだが、私にとってこの漫画はこんな印象だった。


ユリイカ」で特集をしていたようなので、どんなことが書いてあるか読んでみることにする。
きっといいところもあるのだろう。褒めている人の文章も読んでみたいので。



追記。
ユリイカの特集を読んでみた。
ピンとこなかった。

掲載されていた「雨月物語」の漫画版も私には引っかかるところはなく、やたら文字ばかりある、冗長な“挿絵つき語りもの”という印象。
説明ゼリフの嵐である。
安彦良和との対談が掲載されていたが、武富氏の熱意と対照的に、安彦氏は武富氏の作品を評価していないようで、空回りする2人の会話が印象的だった。

ただ、作者の略年譜を読んでひとつわかったことがある。
よしながふみの漫画「フラワー・オブ・ライフ」にあった
“漫画を読んでも成績が落ちることはない。ただし、漫画を描いたら確実に成績は落ちる”という(作者の)コメント、
この言葉をまさに実践した人だったのだな、と思った。
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