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見て読んで聴いて書く

映像、書物、音楽などについての感想

「ゲド戦記」と宮崎駿

ゲド戦記」を読んで強く感じたのは、宮崎駿がここまで影響を強く受けていたのか、ということだった。
キャラクターの造形、セリフ、物語上の仕掛け、そしてテーマ。
びっくりするほど宮崎駿の作品からは「ゲド戦記」の影響が感じられる。
宝島社から出ていた「僕たちの好きなゲド戦記」を読むと「『ナウシカ』と『ゲド』の深い関係」という題で倉田熱というペンネームの人がそのことについて書いていた。

僕たちの好きなゲド戦記

僕たちの好きなゲド戦記

そこでは以下のことが、類似する、影響を受けたと思われることとして挙げられていた。

◆「ハウルの動く城
・変身の術を使いすぎたハウルが鳥の姿から元に姿に戻るのが難しくなってくるところ
◆「千と千尋の神隠し
・湯婆婆が相手の名前を奪うことで自分の支配下に置くことができること
◆「魔女の宅急便
・キキの相談相手となる画学生のウルスラは、「ゲド戦記」の著者アーシュラ・ル=グウィンのUrsulaと同じつづりであること
◆「風の谷のナウシカ
ナウシカと行動を共にするキツネリスのテトは、若き日のゲドが連れていたオタクという種類の小動物(名前はテグ)を連想させること
・巨大な虫“王蟲”は、アースシーの最強の竜“オーム”の名前と同じであること
ナウシカの師でもある老剣士ユパが、ナウシカに「すすめ いとしい風よ」と語るセリフと、ゲドの師匠であるオジオンが「いとしいハヤブサめ。うまく飛んでいくんだぞ」とつぶやく部分
・漫画版「ナウシカ」でナウシカが叫ぶ有名なセリフ「いのちは闇の中のまたたく光だ!!!」というセリフ。これは闇と光の関係という「ゲド戦記」のもっとも重要なテーマのひとつと呼応していること

ほか私が感じたものとしては、
◆「ドラゴンフライ」に登場する老女のまじない師コケババは宮崎作品に登場する怪しげな女まじない師に通じるものがある
◆「もののけ姫」の主人公サンが見せる烈しい感情のうねりは、ドラゴンフライ(アイリアン)の性格を連想されるところもある

といったところでほかにも探せばまだまだ見つかるのではないかと思われる。

特に「ナウシカ」については「ゲド戦記」からの影響が強く感じられたので、発表当時に宮崎監督自身が何か語っていたか気になり、アニメージュ編集部が当時出した「映画 風の谷のナウシカ GUIDEBOOK 復刻版(ロマンアルバム)」を入手、読んでみた。「ナウシカ」発表にあわせて作られた、おそらく日本で初の“宮崎駿研究本”である。

映画 風の谷のナウシカ GUIDEBOOK 復刻版(ロマンアルバム)

映画 風の谷のナウシカ GUIDEBOOK 復刻版(ロマンアルバム)

宮崎監督による講演記録も収録しているのだが、そこでは「ゲド戦記」については特に語られておらず、本全体でも特に言及はされていなかった。ちょっと不思議な気がした。
※ここで書いていることとは話がずれるが、巨神兵で関わった庵野秀明が、多数いるスタッフの中でも極めつけの“ユニークな人物”と紹介されていたのが興味深かった。30年前の話である。

ただ、スタジオジブリのサイトを見ると「ゲド戦記」のアニメ映画化に際しての鈴木プロデューサーへのインタビュー記事があり、こんなことが書かれてあった。
http://www.ghibli.jp/20special/000283.html
鈴木プロデューサーのコメントを引用されていただく。
映画化についてアメリカで行われたル=グウィン氏と宮崎駿氏の対話部分である。
宮崎駿氏に監督してほしいと伝えたル=グウィン氏に対しての部分だ。

鈴木 いろいろありましたよ。何しろ彼女は宮崎「駿」に映画化してほしいと言っていたわけですから。まず宮さんが「今日は俺に話をさせてくれ」と、「ゲド戦記」への思いを話し始めました。「本はいつも枕元に置いてある。片時も放したことがない。悩んだ時、困った時、何度読み返したことか。告白するが、自分の作ってきた作品は『ナウシカ』から『ハウル』に至るまですべて『ゲド戦記』の影響を受けている」と。そして「作品を細部まで理解しているし、映画化するなら世界に自分をおいて他に誰もいないだろう」と言い切った。しかしその直後、彼はこう付け加えました。「この話が20年以上前にあったなら、自分はすぐにでも飛びついていたと思う。だが、自分はもう歳だ。そんな時、息子とそのスタッフがやりたいと言い出した。彼らが新しい魅力を引き出してくれるなら、それもいいかも知れない」。そしてこう締めくくった。「息子がやるであろうスクリプトには自分が全責任を持つ。読んで駄目だったら、すぐにやめさせる」と。

結果、映画化された「ゲド戦記」は、あのような仕上がりとなった。
ル=グウィン氏にここまでタンカを切った宮崎駿氏は相当に精神的に苦しんだと思われる。

でも宮崎吾郎氏はよく、「ゲド戦記」を読んで映画化できると思ったものだ。
全6巻を読み終えた私の感想としては、チャレンジャーにしては無謀すぎるというのが正直なところだ。

そしてあれだけの酷評を受けながら監督第2作も発表、おそらく第3作も企画が進んでいると予想される。

実は仕上がりは別とすると、個人的には「ゲド戦記」で垣間見れた彼の内省的な世界観を展開した作品、嫌いではないのだが……。

次の第3作でジブリの未来はどうなるか決まりそうな気がする。

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あと「ゲド戦記」と宮崎アニメの関係について注目すべき点がある。
それは“性”についての言及は宮崎アニメではないということだ。

ゲド戦記」は第4巻以降、性、ジェンダーの問題が非常に大きなテーマとなる。
宮崎アニメはそういった領域にはまったく踏み込んでいない。
セックスについて触れないのが宮崎アニメの特徴ではあるが、ル=グウィンのイノベイティブな姿勢を思うと、大きな違いだ。

さいはての島へ―ゲド戦記〈3〉 (岩波少年文庫)

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↓吾郎氏による絵は本の表紙と構図が同じ。駿氏はこれを見て、アレンと竜が目を合わせているので間違いだと言ったそうだ。
ゲド戦記 [DVD]

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