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三浦しをんの中・短編小説集「むかしのはなし」

むかしのはなし

むかしのはなし

むかしのはなし (幻冬舎文庫)

むかしのはなし (幻冬舎文庫)

ウィキペディアによると、三浦しをんの7冊目になる小説単行本。
6冊目の「私が語りはじめた彼は」はまだ未読。
巻末を見たら雑誌掲載からの収録でなく書き下ろしだった。
中短編集の書き下ろしというのも珍しいのでは。

以下の7編で構成。
・ラブレス
・ロケットの思い出
・ディスタンス
・入り江は緑
・たどりつくまで
・花
・懐かしき川べりの町の物語せよ

各作品の文頭には別ページで「かぐや姫」「花咲か爺」などの昔話のプロットが書かれている。
そのプロットを換骨奪胎して、インスパイアされたものを現代に置き換えて書いた小説ということなのだろう。
文末の参考文献には柳田國男の「日本の昔話」などが挙げられている。
「ロマンス小説の七日間」でも感じたのだが、物語のパターン的なものに関してこの時期、作者は考えることがあったのかもしれない。ウラジーミル・プロップによる物語のパターン分析的な。

ただ、今回の小説を読んで、文頭にある昔話との関連は正直あまり感じるところはなかった。私の読解力不足なのだろう。
作品の内容に関して量・質ともに非常にバラツキが激しいと感じた。
「ラブレス」はマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの名盤と同じタイトルでもあり、実は期待したのだが肩透かしな内容だった。考えてみたら、この作者はマイブラなんて聴いていないのかもしれない。
実はエッセイのたぐいはまったく読んでいないので、漫画好きでおそらくものすごい読書家だったろうというくらいしかこの作家については知らないのだ。

作品を読み進めて、これは今までで一番よくないなーとか思っていたのだが、ちょっとした仕掛けが作品全体に対してあったこともあり、読み進めることができた。
そして、なんといっても最後の「懐かしき川べりの町の物語せよ」が素晴らしかった。
これはかなりいい。
何がいいって登場人物のモモちゃんのキャラクターである。
この中編を読むことができたので、この小説集を読んでよかったと思えた。
モモちゃんのようなキャラが出てくる長編を読んでみたい。

ただ、全体を通してみると、ちょっとした仕掛けも中途半端なものでもあり、正直、一冊の本としては中途半端な仕上がりという気もする。

私の印象ではこの作家はスロースターターな印象がある。
現時点の読書体験では短編よりは、書き下ろしの長編の方が向いてるように思える。

だんだん性的なことも書いてきているので、そのことについても触れたいが、実はこの本も読んだのが3週間くらい前なので細かいことは忘れてしまっている。
なので、書きたいのだが、書けない。再読する時間は今はないので、残念である。

現在、「きみはポラリス」を読んでいる。追って読み終えたら感想メモを残したい。
ウィキペディアでもそんなことが書いてあったが、この作家、中・短編を発表するようになってから過渡期に入っているような感がある。