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映像、書物、音楽などについての感想

遊川和彦脚本によるNHK連続テレビ小説「純と愛」の脚本・ノベライズ本

NHK連続テレビ小説 純と愛 上

NHK連続テレビ小説 純と愛 上

NHK連続テレビ小説 純と愛 下

NHK連続テレビ小説 純と愛 下

ドラマ 2013年 02月号 [雑誌]

ドラマ 2013年 02月号 [雑誌]

月刊ドラマ2月号で、NHK朝ドラ「純と愛」の数週間分にあたる脚本を読み、感心した。
インタビューでの遊川和彦氏の語る力の入った言葉にも個人的には感銘を受けた。
私は日本の脚本家の中では氏を高く評価しているのだ。
どうも私のような人はあまり多くないようだが。
ドキュメンタリー番組での、偉そうに見える言動もあり、反感を買っていることもあるかもしれない。脚本家でありながら演技指導までしてしまうという人である。
氏の脚本はあざとい仕掛けも多いのだが、自身の言いたいことが熱意をもって描かれている、と私は思い好感を抱いている。まあ、そこをうっとおしいと思う人もいるのだろう。

作品全体の脚本を読みたいと思っていたのだが、やはり出版されそうにもないのでノベライズ版を読むことにした。
私はドラマのノベライズというものはあまり読んでみたいと思わないのだが、シナリオが読めないのでしかたがない。

実はこのドラマ、私は見ていない。
以下の感想は月刊ドラマ掲載の脚本とノベライズ本を読んだうえでの感想である。
ゆえにドラマの感想としては偏ったものであり、本来的にはあまり語る資格がないことを先に述べておく。

読んでみると、ノベライズ本は、シナリオに書かれている情報をすべて盛り込んだであろう、長大なプロットといえるものだった。あくまでもプロットではあり、小説ではないみたいな中途半端な文章。
そんなこともあり、初めは読んでいてあまり興も乗らなかったのだが、次第に極度にメリハリの効いたストーリー展開にのめり込んでいった。

このノベライズ本を読んで、アメリカの著名なシナリオ講師シド・フィールドが自著で何度も繰り返して語っていることを思い出した(彼の本はフィルムアート社から2冊出ているが、オーソドックスなシナリオ指南書として学ぶべきところが多いので、私は何度も読んで、ノートも付けている)。


ドラマとはすべて葛藤である。葛藤がなければアクションはなく、アクションがなければ主人公もいない、主人公がいなければストーリーは作れず、ストーリーがなければ脚本は書けないのだ。P50

“葛藤”とは「対立」という意味であり、葛藤があるために「登場人物やアクションの間で対立が起き、それがプロットを動かす」。では葛藤を生み出すには何が必要か? それにはまず、登場人物にはっきりしたドラマ上の欲求がなくてはならない。その欲求や目的の達成を邪魔する障害を作ると葛藤が生まれ、登場人物は何とか目的を達成しようと努力し、障害を乗り越えていく。登場人物が強烈な価値観を持つ人間である場合には、相反する価値観を持つ登場人物を作ると、両者の間に強烈な葛藤が生まれる。P112

「素晴らしい映画を書くためにあなたに必要なワークブック シド・フィールドの脚本術2」より

映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術

映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術

素晴らしい映画を書くためにあなたに必要なワークブック シド・フィールドの脚本術2

素晴らしい映画を書くためにあなたに必要なワークブック シド・フィールドの脚本術2


そういう意味ではこの「純と愛」という作品は、まさにドラマ! ということになるのではないだろうか。
純と愛」のストーリーは葛藤! 葛藤! 葛藤!である。
主人公の純は、自分に素晴らしい思い出を残してくれた祖父が経営していた“魔法の国”のようなホテルを作ろうと奮闘する。(はっきりとしたドラマ上の欲求)

だが、彼女の目標達成に向けての行動に対して、これでもか、これでもかというくらい、周囲は大きな障害となり、彼女に立ちふさがる。

登場人物の中に、大阪で庶民的なホテルを経営しているサトというドラマ好きの女将がいる。
彼女は純に対して「ドラマチックだねー」と何度も言うが、まさにこの作品は純を主人公とした“ドラマ”である。

そしてこの作品の特徴はもう一つある。

このドラマにおいて、主人公の奮闘、頑張りは、何度も何度も阻まれ、結局大きく報われることなく物語が終わるということである。
勝つか負けるか、で言えば主人公が負け続けるドラマである。

母が認知症になり、父は水死、夫は脳腫瘍で植物状態人間に。
うまく進むかと思えば、大惨事で今までの頑張りは御破算。主人公のひたむきな努力は周囲の人々を変えていくが、結果的にはその努力は報われない。
せめてラストに大逆転が訪れるかといえば、そんなことはない。踏んだり蹴ったりの中、ほんの微かな希望らしきものが見えるだけでドラマは終わる。

普通の連続ドラマでもここまで負け続ける展開はない。
まして朝ドラである。

いい気分になって1日を頑張ろうと思っている人にとっては、気の滅入る厄災のようなドラマだったのではないだろうか。1日の初めから、こんなに不幸続きのドラマを見たら戸惑ってしまうのが普通の感想だろう。ヤフーなどでのアンケートによると「純と愛」視聴者の満足度は非常に低かったようだ。満足度0%が20%で1位というのだからすごい。
http://polls.dailynews.yahoo.co.jp/quiz/quizresults.php?poll_id=8775&wv=1&typeFlag=1
そういう意味では、不評であって当然のドラマともいえる。

私はこのノベライズ本を読んで、少年ジャンプに連載されている漫画「ONE PIECE」を思い出した。
初期のルフイは、「俺は海賊王になる」と連呼し続けるが実力がそれに追いつかず、現在から視るとザコキャラ相手に奮闘、空回りを続けていた印象がある(かなり前に読んで再読してないので違ったらすみません)。
そして初めて出会った圧倒的な強さを持つ敵・クロコダイルには2回戦いを挑んで2回とも徹底的に打ちのめされている。
だが「友情・努力・勝利」のジャンプである。
3度目の戦いで、ついにルフイはクロコダイルに勝って物語に決着をつけた。
そのときのカタルシスが「ONE PIECE」を読む醍醐味だ。そして娯楽というものはこういうものである。

翻って「純と愛」である。
純の頑張りは愛のサポートでいい所まで行く。だが無情な偶然により全てが失われてしまう。
主人公が勝利を得るカタルシスはない。このドラマはジャンプ的な世界観では描かれていない。

遊川氏は、脚本家として「GTO」(98年)、「魔女の条件」(99年)、「女王の教室」(05年)、「家政婦のミタ」(11年)というテレビ史に残る大ヒット作を手掛けてきた人物だ。しかも、その作品スパンは10年以上に渡る。
何を書けば“大衆”に受けるかということは、相当に“分かっている”だろう。

特に「GTO」、「女王の教室」、「家政婦のミタ」については、組織からはみ出してしまう規格外の人間が主人公。そんな主人公が、さまざまな問題を、その行動力、異色の能力でたちどころに解決するというところが見せ場となるドラマだった。

社会の枠から逸脱してしまう主張の強いキャラクターという点では、純も同様である。
だが、純は遊川脚本の先に挙げた作品の主人公のように、強くない。異能の力で勝利することはないのだ。
頑張りでいいところまでいくのだが、結果的には障害に阻まれる。
朝、見るには確かに重過ぎるドラマではある。

だが、どう考えても“受け”の悪いであろうドラマを手掛けた遊川氏の心意気みたいなものを、ノベライズ本を読んで私は感じた。
そしておそらく、執筆時の遊川氏に大きな影響を与えたであろう、東日本大震災とそれにともなう原発事故のことを。

商業ドラマで大成功を収めた50代後半になったシナリオ作家が、こういうドラマを手掛けたということに私は大いに心を動かされてしまった。
ドラマのラスト、植物状態となった夫・愛を前に長々と独白する純の言葉は、まるで宮沢賢治の「雨ニモマケズ」のようである。

遊川脚本には通底するテーマがある。
“個とそれを押しつぶそうとする組織との軋轢”“ジェンダーの問題”である。
純と愛」はそのテーマも含め彼の集大成的なドラマとなっていたように、このノベライズ本を読んで思った。

もうちょっと主人公にいい思いをさせてあげる、明るい落としどころだったら視聴者の受けもよかったのかもしれないが、それをしなかった遊川氏の心意気にはある意味で敬服する。
元々は愛を殺す結末にしたかったそうだから、本当に挑戦的なドラマだったのだ。

さきほど挙げた、サトというドラマ好きの女将に対して純がこんな質問をするシーンがある。
「どんな時に生きる希望を持ちましたか?」という問いだ。
それに対してサトは、いいドラマを見たときだと答える。

作者の遊川氏はそんなドラマを作りたいと思っているのだろう、とこのシーンを読んで思った。
ただ、このドラマがそう仕上がっていたかは微妙なところではあるが……

このドラマが成功した作品なのか失敗した作品なのか、見ていない私にはわかない。
見てないので語る資格もない。
ただ、一部の脚本とノベライズ本を読む限りでは、私は非常に心を動かされた。

以下の言葉は昔から言われている。

質の悪い脚本から名作は絶対に生まれない。だが、良質な脚本が必ず名作となるわけでない。

勢いで書いたので、荒いところがあるがご勘弁願いたい。

いずれDVDで見たいと思っている。