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映像、書物、音楽などについての感想

新城カズマのストーリー作成指南書「物語工学論 キャラクターのつくり方(文庫版)」

書籍

物語工学論 キャラクターのつくり方 (角川ソフィア文庫)

物語工学論 キャラクターのつくり方 (角川ソフィア文庫)

この本は以前読んだことがあったのだが、今回文庫版を再読した。

ちなみに以前のタイトルは
「物語工学論 入門編 キャラクターをつくる」
だった。

実はこの本、アマゾンに以前レビューを書いた記憶があった。
見るとこんなことが書いてあった。2011/3/8付けだった。

キャラクター・アーキタイプから物語を創造する手法の分析

キャラクターについていくつかのアーキタイプを想定、
そこから物語構築を考えるという点で、ライトノベルとの親和性が高いと思われる。

この人と冲方丁の創作論は非常に面白い。時間があればまた詳細を書き込みたい。

我ながら中身のないことを書いているが、当時の自分はこの書籍を比較的評価していたようだ。
ただ、内容について突っ込んで読んではいなかったと思う。

で、今回軽くざっと読み返しての感想だが、
あまり得たものはない、というのが正直なところだ。

簡単に感想メモを残す。

裏表紙には以下の言葉

「物語はどうやって創ればいいのだろうか?」。『塔の中の姫君』『あぶない賢者』ほか、キャラクターメイキングの七つの類型から“物語”の構造と本質を解き明かしていく。各キャラクターをゼロから作成できるチャートも掲載。(以下略)

ここでは7つのアーキタイプを想定して物語の成り立ちを解説しているのだが、今となってはこの7つのアーキタイプに著者ならではの“オリジナリティ”や創意工夫を感じない。
ありがちなアーキタイプという印象だ。
さらに、なぜこの7つなのかという疑問も生まれた。
この疑問に対しては、著者も序文で前置きをしている。7つのアーキタイプは元素における周期表のようなものであると。
だが、ここでの7つのアーキタイプには周期表と比することができるような妥当性があるのだろうか。7つであることの意味はどんなところにあるのだろうか。
どれだけの量のサンプルを元に7つのアーキタイプを想定したのだろうか。
工学として語るには乱暴すぎるように思える。

著者の論の展開は、突っ込みに対する返答も考えた周到なものなのであるが、論を語ることで終わり、読む者をインスパイアする力にも欠けているように思える。
少なくとも、私にとっては説得力のある言説、インスパイアされるような力のある文章ではなかった。

私の思いつく限り、日本で物語創作に対して“工学”という発想で著書を発表した人物はほかに2人いる。
1人は「ドラマとは何か? ストーリー工学入門」「シナリオ創作演習十二講」を発表した川邊一外。戦後の松竹に山田太一大島渚と同期で新卒入社した人物だ。

ドラマとは何か?―ストーリー工学入門 (映人社シナリオ創作研究叢書)

ドラマとは何か?―ストーリー工学入門 (映人社シナリオ創作研究叢書)

ドラマ別冊 シナリオ創作演習12講 2013年 10月号 [雑誌]

ドラマ別冊 シナリオ創作演習12講 2013年 10月号 [雑誌]

もう1人は「シナリオライティングの黄金則」「映像コンテンツの作り方−コンテンツ工学の基礎− 」の金子満。フジテレビのプロデューサーを経てシナリオライターとなり、その後、東京工科大学大学院教授となった彼は「シナリオには工学的分析が必要」として、工学的視点でシナリオライティングの分析を試みている。
シナリオライティングの黄金則 ー コンテンツを面白くする ー

シナリオライティングの黄金則 ー コンテンツを面白くする ー

「ドラマとは何か? ストーリー工学入門」において、川邊はまずは脳の構造から始め、シナリオ創作の“理論”を語るという、“川邊理論”とでもいうべき、かなり突拍子もないシナリオ創作論を展開している。ともかくその勢いに圧倒される。
一方、金子はフジテレビ時代にアメリカのスタジオに渡り、ドラマ作成の現場を体験、シド・フィールドらに代表されるドラマ創作論を日本ではいち早く学んだ人物。「シナリオライティングの黄金則」ではシド・フィールドのプロットポイント論を踏まえ、物語をロット(後にフェイズと言い換える)という単位に分けて物語を創る手法を提案している。以降、キャラクターについては「キャラクターメイキングの黄金則」、ミザンセーヌという日本ではあまり語られない要素に注目した「映像ミザンセーヌの黄金則」という本も出している。

キャラクターメイキングの黄金則

キャラクターメイキングの黄金則

映像ミザンセーヌの黄金則 -ヒットする映画の作り方-

映像ミザンセーヌの黄金則 -ヒットする映画の作り方-

上記の先輩2人の“工学”からすると、「物語工学論 キャラクターのつくり方」は“工学”と標榜しているが、雰囲気ものの“工学”という感はいなめない。
また、大塚英志の物語創作論と比較しても、正直見劣りするというのが私の印象だ。

特に気になったのが文末の参考資料一覧と主要参考文献。
このリストからすると、著者はおそらくSF、ファンタジー小説を好んで読んできたと思われる。私と近い世代かもしれない。私は著者はかなりの読書家だと思っていたのだが、正直このリストを見てあまりピンとこなかった。
参考資料として一般的には忘れ去られた映画「ワーロック」('59年の作品でなく'89年のほう)を挙げていたのには興味深いものを感じたが、「ダイ・ハード」「ブルース・ブラザース(資料には“ズ”とあるが“ス”が正しい)」「レイダース 失われた聖櫃」「ミッドナイト・ラン」というラインナップには正直あまり映画については見識はないのかもと思わされてしまった。
主要参考文献も特に物語創作についての文献はあげられていない。「物語素の法則」(井上隆明)という書籍が挙げられており興味深かったので入手したのだが、著者は本当にこれを参考文献にしたのだろうか? この本、かなりの珍本である。ウィキペディアによると著者は慶応大学卒となっているが、大学の授業のテキストとして使われたのだろうか。

物語素の法則

物語素の法則

ほかにはレヴィ・ストロース著作が2作、ディーン・R・クーンツの「ベストセラー小説の書き方」、野田昌宏の「スペース・オペラの書き方」があり、中沢新一の「カイエ・ソバージュ」5冊があげられている。
ちなみに「カイエ・ソバージュ」は「神の発明 カイエ・ソバージュ4」「対称性人類学 カイエ・ソバージュ5」があり、このあたりのタイトルから想像するに、キャラクター7つに援用されてるっぽい気もする。だが、「カイエ・ソバージュ」は読んだことがないので的外れかもしれない。「カイエ・ソバージュ」は手軽に読めそうなので入手してみることにする。
神の発明 カイエ・ソバージュ〈4〉 (講談社選書メチエ)

神の発明 カイエ・ソバージュ〈4〉 (講談社選書メチエ)

対称性人類学 カイエ・ソバージュ 5 (講談社選書メチエ)

対称性人類学 カイエ・ソバージュ 5 (講談社選書メチエ)

再読してあまり得ることはなかった。
「物語素の法則」を入手、「カイエ・ソバージュ」を読んでみようかという気になったのが再読して得たものという結論だろうか。
著者のサイトを見ると非常に賢い方のようなので、次の段階の「物語工学論2」を是非出してほしい。
このままでは中途半端すぎます。

内容に関して失礼な言い方があるようでしたら、お詫びします。