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映像、書物、音楽などについての感想

キース・ジャレットのソロ・アルバム『レストレーション・ルーイン』

レストレーション・ルーイン

レストレーション・ルーイン

キース初のソロ・アルバム。'68年作。
ウィキペディアによると'67年作の『人生の二つの扉』と'68年作の『サムウェア・ビフォー』はキースのリーダー作だが、ポール・モチアンチャーリー・ヘイデンとのトリオ名義ということになっている。
ファースト・アルバムはミュージシャンの原点などとよくいわれるが、このアルバムはキースの長い活動でも異色のアルバムであることは間違いない。
全編、キースが歌を歌っているのだから。
これ以降、キースはアルバムで歌は歌っていないと思う……
音的には素朴な味わいのフォーク・ロック。
基本アコースティックギターを基調にキースの歌が流れる。
キースの演奏したハーモニカ、サックス、ドラム、ピアノ、オルガンなどの多重録音で構成されている。
英語力のない私でも聞き取れるような素朴な詩を歌っている。
際立ったものは正直感じられないが、個人的には好ましいものを感じた。
この後のアルバム群を俯瞰すると異色作だが、これがソロデビュー作というのは興味深い。
ジャケット写真のキースはアフロへアにちょびヒゲ。民族衣装風の服を着ている。
ちなみに私は、彼をずっとアフリカ系の血を引いた人だと思っていた。
父がアイルランド系、母が東欧系というのを知ったのはイアン・カー著「キース・ジャレット 人と音楽」を読んだ最近になってからである。
ライナーノーツを読むと、小川隆夫氏は「この作品は人気ピアニストのキース・ジャレットが残したもっとも珍しい内容の1枚である。何と彼がオーヴァー・ダビングを駆使してさまざまな楽器をひとりで演奏し、おまけにヴォーカルまで披露してしまう、という内容であるからだ。しかもほとんどジャズ的な響きが認められないのだから、一種の珍盤と呼ばれても仕方がない」とまで書いている。
一人で演奏した素朴な演奏の多重録音という点では、彼のキャリア上重要な位置にある'85年作の『スピリッツ』に通じるところもある。
そして、自分探し的な素朴な内容の歌詞は、チック・コリアリターン・トゥ・フォーエヴァーで歌われていたサイエントロジーの人が書いた歌詞にも通じるところもある。
そういった意味でジャズ・ミュージシャンが内面的精神世界への傾倒が強くあった時代を反映しているとも思えるのだが、ジャズについて詳しくない私にはあまりそのあたりの事情はよくわからないのがちょっと残念ではある。
ちなみにキースへのインタビュー本「キース・ジャレット 音楽のすべてを語る」では、この作品について聞かれると
キースは「よ〜く覚えてるよ(笑)」と応え、
以下のように語っている。

P85
ギターが好きだったんだ。弾けないことも歌えないこともわかっていたけれど。でも、その時のアイデアの中には夢中になっていたものがたくさんあった。その頃は詩を書いていた。それに曲をつけたりしているうちにあの音楽になった。
芸術家の義務のひとつは自分をさらけ出すことにあると思う。そして、時にそのことを強く感じる時期というのがぼくにはあってこれを作った時もその時期にあたっていた。でも実に子供っぽかった(笑)。とは言うものの、このアルバムにある雰囲気はほかのどのアルバムにもないものだ。他とは違う何かがある。
ジャズには例外があるかもしれないけれど、今の芸術家のかかえている問題のひとつは、間違うことを恐れて冒険をしないことだね。

キース・ジャレット 音楽のすべてを語る (JAZZ LIFE BOOKS)

キース・ジャレット 音楽のすべてを語る (JAZZ LIFE BOOKS)

キースの音楽を好きな人でも、このアルバムの評価は分かれると思う。
ちなみに、私はこのアルバムは好みであり、支持したい。
しょっちゅう聴きたいとは思わないが。

当時のキースのフォーク・ロックへの傾倒を示すものとして『サムウェア・ビヒォー』でボブ・ディランの「マイ・バック・ペイジ」を取り上げていることがよく書かれているが、アメリカン・カルテットの『流星(The Mourning of a Star)』ではジョニ・ミッチェルの「All I Want」も取り上げている。
『流星』についてワーナーのサイトでは、
http://wmg.jp/artist/keithjarrett/WPCR000027098.html

キース1971年の大傑作。
ジョニ・ミッチェルの名曲 「きみの面影」 のカバーも新鮮。
フリーの語法や、サックス&打楽器を大胆に取り入れ新たな可能性を追求する。

とあり、M-8 TRACES OF YOU / きみの面影
となっている。
視聴すればすぐわかるが、カバーは、M-7 ALL I WANT / オール・アイ・ウォントである。

名曲と書きながら、間違えているのが情けない。
曲目を表記して間違えるということは、ワーナーの担当者はジョニの名盤『ブルー』を聴いたこともなく
さらにキースのこのアルバムのこともよく知らないのだろう。
ほんとレコード会社ってのは……
知らないのに傑作とか名曲とか書かないでほしい。
非常に残念なことである。

流星

流星