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脚本家・木皿泉の小説「昨夜のカレー、明日のパン」

昨夜のカレー、明日のパン

昨夜のカレー、明日のパン

脚本家・木皿泉による初の小説単行本。

帯にはこんな言葉

                                                                                                                      • -

なにげない日々の中にちりばめられた、
コトバの力がじんわり心にしみてくる
人気脚本家がはじめて綴った連作長編小説。

七年前、二十五才という若さで
あっけなく亡くなってしまった一樹。
結婚からたった二年で
遺されてしまった嫁のテツコと、
一緒に暮らし続ける一樹の父・ギフは、
まわりの人々とともに
ゆるゆると彼の死を受け入れていく。

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こういう風に書かれると、個人的にはあまり惹かれる内容ではないのだが、読んでみると、予想した通り、非常によかった。
木皿ドラマの魅力が小説の中にしっかりとある。
この小説は8本の連作短編から構成されているのだが、私は1本をドラマの1話として連続ドラマを読むような感覚で読んだ。
文字数の少ない「一樹」についてはドラマの最後のエピローグのように読んだ。

この連作小説を読んで
木皿泉が脚本を手がけたドラマ「セクシーボイスアンドロボ」(’07年 日本テレビ系)を思い出した。
(ただし11話中3話は別の人物による脚本)

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この小説と「セクシーボイスアンドロボ」には頻繁に“死”と“別れ”が登場する。
木皿ドラマの特徴に“死”がテーマの一つとなっているということがあるが、「セクシーボイスアンドロボ」には特にその色が濃かった。
さらに男性の登場人物の雰囲気が「セクシーボイスアンドロボ」に出てきたキャラクターを思わせるものだったりする。
あのドラマは全体としての完成度は?かもしれない。
だが、個人的にはかなり好みのドラマなのだ。
最終回での松山ケンイチのロボと大後寿々花のニコとの唐突とも思える“別れ”には心動かされた。


この小説では
“死んだ人が残したもの”
について語られ、
“死んでしまうということはどんなことか”
を登場人物が考え、
人の死を受け入れ、生きた人が新しい人生を歩んでいくこと(別れ)、
そういったことが物語の中で綴られていく。
すでに死んでいる人が主人公となっている物語も2つある。
ただ、死に対するものとして“生”がしっかり描かれているので、決して暗いネガティブな内容にはなっていない。

おしゃれ、洗練という言葉は似合わない滑らかでない文章だ。
素朴なタッチでつづられた味のある漫画のような作品とも言えるかもしれない。
ただ、“ほのぼの”“しみじみ”といった表面上の言葉では説明のできない深い何かがある。

次作も出るようであれば、是非読んでみたい。
この人(たち)、小説を書き続ければ、他に類がないユニークな作家となるかもしれない。