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映像、書物、音楽などについての感想

中山康樹によるキース・ジャレットのディスク・レビュー集「キース・ジャレットを聴け!」

書籍 音楽 キース・ジャレット

キース・ジャレットを聴け!

キース・ジャレットを聴け!

昨年に出版されたキース・ジャレット論「キース・ジャレットの頭のなか」がそんなに悪い本ではなかったので、4月に出た、同じ著者によるこの本も読んでみた。
キース・ジャレットの頭のなか

キース・ジャレットの頭のなか

こちらはキースが関わったアルバム約100枚を基本見開き2ページで解説したディスクレビュー集だった。時系列に並んでいるので、続けて読めば彼の音楽的足跡もわかるようになっている。
取り上げられているアルバムはプロとしてのデビュー作になるというアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ「バターコーン・レディ」(‘66年)から2014年2月時点での最新作「リオ」までとなっている。

中山氏の文体は比較的気楽に読める類のものだが、この本は、前作の「キース・ジャレットの頭のなか」よりもさらに楽に読める本となっていた。
レビューの小見出しは、多少断定的なトーン。レビューの文もさらっと書かれてあるので、読みやすい。そして読み終えるとなんだかわかったような気になってくる。そんな本だった。
いくつか各作品ごとの小見出しとそのタイトルを以下に書く。
これらを聴いたことのある人は、全面肯定とまではいかないが「なるほどね」と思うのでは。

◆「無価値・無意味だからこその価値と意味」『レストレーション・ルーイン』
◆「やはりキースは天才か なんだろうこのヘンテコなメロディーは」『ゲット・アップ・ウィズ・イット』
◆「キースの《インプロヴィゼーション》4連発にビビります」『セラー・ドア・セッションズ1970』
◆「壮大なる無駄という名の想像力の爆発」『エクスペクテーションズ』
◆「『困った人』を最初に印象づけた『困った作品』第1号」『イン・ザ・ライト』
◆「キースのピアノが『ほんとうにすごかった』時代の最高峰」『ソロ・コンサート』
◆「ジャック・スパロウと化した宝島探索記」『宝島』
◆「キース史にサックスの詩人ヤン・ガルバレク登場」『ビロンギング』
◆「天上から降りそそぐ珠玉のメロディー」『ケルン・コンサート』
◆「『ケルン・コンサート』のスタジオ・ヴァージョン?」『ステアケース』
◆「ガース・ハドソン含有率最多(?)のソロ・ピアノ・ライヴ」『ヨーロピアン・コンサート』
◆「この2枚組であなたのキースへの忠誠心がわかります」『スピリッツ』
◆「ウナリ声・ウメキ声と演奏のズレが気になります」『テスタメント』

この本を読んでいると、
「困った人」キース・ジャレットが発表する「困った作品」
という表現が何回か出てくる。オルガン・ソロ、クラビコードのソロ、自宅録音の“珍作”などなどに関して語るときである。

中山氏はキースの天才的な才能は評価しているようだ。だが、「困った人」であるキースに対してはクールな態度を取っていることがこの本を読んでいるとかいま見えてくる。前著の「キース・ジャレットの頭のなか」で重要作『スピリッツ』について全く触れていなかったということもこの本での『スピリッツ』のレビューを読むとよく分かってくる。

Spirits

Spirits

ちなみに『スピリッツ』はキースが自宅録音したアルバム。
フルートや様々な民族楽器を一人で演奏、多重録音。こんこんと湧き出す清らかな泉のような音楽を延々と演奏してる2枚組アルバムだ。何の情報もなく聴いたらキースのアルバムと思う人は、まずいないだろう。

『スピリッツ』のレビューを冒頭と結末だけ引用させていただく。

キースのアルバム山脈は次の3枚が存在することによって、他の誰とも比較できない形状と迫力をそなえるに至った。『レストレーション・ルーイン』『スピリッツ』『ノー・エンド』。長く前者2枚の2強時代が続いていたが、2013年に『ノー・エンド』が登場し、ここに鉄壁というべき3強時代が出現した。
(中略)
つまりこの音楽の聴き手は、これがキース・ジャレットによってつくられていることを知った上で接する。よって基準は忠誠心にならざるをえない。少なくともぼくはそれが「イビツな正直な聴き方」であると考える。そして結論をいえば、他の誰かがこの音楽をつくっていれば「駄作」と断じるが、キースであるがゆえに「聴かなければならない」と感じる。そう、駄作であってもなくても。

中山氏のキース・ジャレットに対するスタンスが見えてくる文章だった。

「キースはあれだけの才能があり、あれだけの素晴らしいアルバムを発表してきたのだ。仕方ない。お布施みたいなもので、有り難く拝聴させていただきます。ただ、本心は違うよ」
こんな心情であろうか。

私は、『スピリッツ』というアルバムは、キース・ジャレット作という情報を抜いても「駄作」と断じることはできない“奇妙なもの”が充満している作品と思うので、そこまで明快に結論づけることには違和感がある。ただ、こういう作品をなんのてらいもなく発表することにおいて、キース・ジャレットというアーティストは「困ったと人」と称されても仕方ないということはよくわかる。

ちなみに中山氏はこの本で、チャールズ・ロイド・カルテットを高く評価、6枚も紹介している。この本を読んだことを機会に、聴いてみることにする。