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萩尾望都の漫画「ポーの一族」

ポーの一族 文庫版 コミック 全3巻完結セット (小学館文庫)

ポーの一族 文庫版 コミック 全3巻完結セット (小学館文庫)

数ヶ月前に竹宮恵子の「マンガの脚本概論」を読んだ。
マンガの脚本概論

マンガの脚本概論

そこで竹宮氏は萩尾望都トーマの心臓」「ポーの一族」からの図版を例としてあげ、’70年代少女漫画のコマ割り、話法の特徴について解説をしていた。
興味深く感じ、今回再読することにした。

ポーの一族」は’72年、「トーマの心臓」は’74年に発表された。
両作品ともに、遅くとも’80年前後には単行本で読んでいたはずである。
今回読んだのは30年以上ぶりだろう。
先に読んだのは「ポーの一族」。
まずこちらの感想メモを残すことにする。
読んだのは小学館文庫版。

表4(裏表紙)の梗概はこんな感じ

青い霧に閉ざされたバラ咲く村にバンパネラの一族が住んでいる。血とバラのエッセンス、そして愛する人間をひそかに仲間に加えながら、彼らは永遠の時を生きるのだ。その一族にエドガーとメリーベルという兄妹がいた。19世紀のある日、2人はアランという名の少年に出会う…。時を超えて語り継がれるバンパネラたちの美しき伝説。少女まんが史上に燦然と輝く歴史的超名作。

もっと煎じ詰めて言えば
人間から永遠の命をもつヴァンパネラ(ヴァンパイア的な存在。萩尾の造語?)に転生した14歳の少年、エドガー・ポーツマス。彼を主人公にさまざまな時代でのまざまな人間関係がつづられる、中・短編からなる連作。
ということになるのだろうか。

文庫版の掲載順は雑誌での掲載順とは異なっている。
また、この文庫版でも時系列順に物語は進んでいない。
主要人物であるエドガーの妹メリーベルは第1話「ポーの一族」であっけなく消滅してしまう。
だが、物語は過去に飛び、メリーベルは何度も登場する。
各話ごとの絵柄にはかなりバラツキがある。
中には大島弓子を連想させる描線で描かれたキャラクターもあったりする。

この名作については、いまさら私が興味深く思った点を書き残したとしても、おそらくすでに指摘されているという気もするが、個人的備忘メモとして以下簡単に書いておくことにする。
書き残しておかないと忘れてしまうので。
実は1ヶ月前に読んだので、すでに記憶が薄れつつあるという状況だ。

◆ページあたりの情報量の多さ。情報量としては「宇宙兄弟」比で4〜5倍はあるのではないだろうか。文庫本で3巻でありながら、読み終えたときの読後感の深さは、現在ちまたに出回っている多くのコミック10巻分以上はあるように思える。良し悪しではなく、竹宮氏が書いていたように、少女漫画の表現がそういう時代だったということなのだろう。
◆各話ごとに謎が提示され、それが解明されていくというミステリー仕立ての体裁となっていること。このあたりが、物語を読み進める推進力となっていて一般的な読者からも支持を得ているのかもしれないと思えた。
◆ヴァンパネラが不死で、年老いることがないということ。そして主人公エドガーの“時が止まった”年齢が14歳であるということ。
楳図かずおの「14歳」(1990年)、「新世紀エヴァンゲリオン」(1995年)の主人公・碇シンジが14歳であること、酒鬼薔薇聖斗の14歳(1997年)、中二病 など、1972年の段階で子どもから大人への境目としての“14歳”という危うい年齢に着目していたことに感心した。14歳という年齢について作者をインスパイアしたものがあったのかもしれない。だが、それについては私は知らない。「エヴァ」のシンジが14歳から成長できないというのはこの作品へのオマージュ的なもの、もしくは影響とも思える。
◆さまざまな時代の物語が断片的につづられ、読み進めていくとそれぞれの時代の物語が過去の時代の物語とつながり、因果関係をもっていき、大きな物語となっていく。その構成力の巧みさ。

名作中の名作というにふさわしい内容だと思う。
個人的体験でいうと自分が若いときに読んだよりも、心動かされた。最近ちょっとないほど作品のなかにのめり込んでしまった。
多分、当時は年老いるということを意識することはなかったが、現在はそのことについて意識しているからだろう。

文庫本第2巻では宮部みゆき氏が、あとがきエッセイを寄稿、萩尾氏による後進の人たちへの大きな影響について語り、内容を絶賛している。そしてこんなことを書いている

世界中の多感な年頃の少年少女たちに萩尾さんの作品を読ませてあげたい、読めばきっと心のなかのある特別な窓が開かれて、その窓から差し込む光が、その後のあなたの人生を照らしてくれるからねと伝えたい

確かに読んだ人の人生を変えてしまうかもしれないくらい力のある特別な名作であることは間違いないと私も思う。

とはいえ、アマゾンのレビューでこんな文章があったのも興味深かった。ほとんどすべてのレビューが絶賛の中、以下のような文章があった。

良くできたストーリーだし、面白いけど
少々気味悪く、自室に置きたくない。
ストーリーやキャラクターが作者の理想像の
押し付けみたいで、その点良くない。

こういう価値観の人にも(ですら)面白いと思わせるところが素晴らしいと思う。
異端者を描く特殊な題材・テーマでありながら、作品自体は閉じたものでなくエンターテインメント性、さらには普遍性があるのだ。未だに版が途切れることなく続いているということはそういうことなのだろう。

私は娘が中学生になったら読ませたい漫画のひとつだと思った。
図書館で借りたのだが、アマゾンで買って数少ない蔵書に加えることにする。

次に「トーマの心臓」について軽く感想を書き、その後でパット・メセニーの『タップ』について書くつもりだ。

「トーマの心臓」の感想メモ