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ロレッタ・ナポリオーニ「イスラム国 テロリストが国家をつくる時」

書籍

イスラム国 テロリストが国家をつくる時

イスラム国 テロリストが国家をつくる時

娘が読んでいたので借りて読んでみた。
著者略歴を見ると、ローマ生まれでアメリカ、イギリスで学んだ人物。テロリストのファイナンス事情に詳しいと書かれてある。

イスラム国」については、歴史上初めてテロリストが国家をつくることに成功するかもしれないとして、早くから注目、発言をしていた。

とある。
特に期待せずに読み始めたのだが、思いのほか興味深い内容だった。著者のスタンスもイスラム、欧米どちらにも深く加担することなく、ドライに書かれている印象があり、その点にも好感を持った。
ちょっと長いがアマゾンの紹介文を以下に引用させていただく。

中東の国境線をひきなおす。

アルカイダの失敗は、アメリカというあまりに遠い敵と
第二戦線を開いたことにあった。
バグダッド大学で神学の学位をとった一人の男、バグダディは
そう考えた。
英米、ロシア、サウジ、イラン、複雑な代理戦争をくりひろげる
シリアという崩壊国家に目をつけた、そのテロリストは
国家をつくること目指した。
領土をとり、石油を確保し、経済的に自立
電力をひき、食料配給所を儲け、予防接種まで行なう。
その最終目標は、失われたイスラム国家の建設だと言う。

対テロファイナンス専門のエコノミストが放つ
まったく新しい角度からの「イスラム国」。

池上彰が渾身の解説。

はじめに 中東の地図を塗り替える

欧米の多くの専門家は「イスラム国」をタリバンと同じ時代錯誤の組織だと考えている。しかし、それは違う。彼らは、グローバル化し多極化した世界を熟知し、大国の限界を驚くべきほど明確に理解している

序章 「決算報告書」を持つテロ組織

冷戦下のテロ組織は、PLOにしてもIRAにしても、狭い領域内で正規軍に対して戦いを挑んだ。イスラム国の決定的な違いは、群雄割拠する国際情勢の間隙をついて、広大な地域を支配下においた点だ

第1章 誰が「イスラム国」を始めたのか?

イスラム国」の起源は、ビンラディンに反旗を翻したザルカウィに始まる。「遠い敵」アメリカではなくシーア派を攻撃するその路線は、バグダッド大学でイスラム神学の学位をとった一人の知識人にうけつがれる

第2章 中東バトルロワイヤル

米ソという超大国にいきつく冷戦期の代理戦争と違い、今日の代理戦争は多岐にわたるスポンサー国家が存在する。そうした多頭型代理戦争の間隙をついたのが「イスラム国」だ。いち早く経済的自立を達成し、優位にたった

第3章 イスラエル建国と何が違うのか?

イギリス、フランスの手によって引かれた中東の国境線を消し、新しいカリフ制国家を樹立する。そうとなえる「イスラム国」は、ユダヤ人がイスラエルを建国したのと同じ文脈にあるのだろうか?

第4章 スーパーテロリストの捏造

イラクサダム・フセインアルカイダをつなげるために、欧米によってザルカウィの神話がでっちあげられた。十年後、後継者のバグダディは、ソシアルネットワークの力でカリフ制国家の神話を欧米の若者に信じ込ませる

第5章 建国というジハード

イスラム国」は、カリフ制国家の建国というまったく新しい概念をジハードに持ち込んだ。それは、アメリカという遠い敵に第二戦線を開いたアルカイダ、腐敗と独裁の中東諸国の権威を一気に色あせさせたのだ

第6章 もともとは近代化をめざす思想だった

イスラム国」がよりどころにしているサラフィー主義はもともとは、オスマン帝国の後進性から近代化をめざす思想だった。それが欧米の植民地政策によって変質する。「神こそが力の源泉である」

第7章 モンゴルに侵略された歴史を利用する

一二五八年、バグダッドは、モンゴル人とタルタル人の連合軍によって徹底的に破壊された。当時連合軍を手引きしたのはシーア派の高官。21世紀、欧米と手を組むシーア派というロジックでこの歴史を徹底利用する

第8章 国家たらんとする意志

グローバル化と貧困化は、世界のあちこちで武装集団が跋扈する無政府状態を生み出した。しかしこれらの武装集団と「イスラム国」を分けるのは、「イスラム国」が明確に国家たらんとする意志をもっていることだ

終章 「アラブの春」の失敗と「イスラム国」の成功

ツイッターによるイランの「緑の革命」、フェイスブックによる「アラブの春」、ユーチューブによる「ウォール街を選挙せよ」そして香港の「雨傘革命」。これら社会変革の試みが必ずしも成功しなかった理由は何か?

解説 「過激テロ国家」という認識の思い込みの修正を迫る本 池上彰

上記の文章をもう少し補完すれば、この本の内容は理解できると思う。
この本に書かれていることは、パワボのシート10枚くらい使えば、ざっと説明できるような内容だ。

この本をものすごく大雑把に言ってしまうと以下のような内容とも言えるだろう。

近代以降、欧米の利権をめぐる争いに翻弄されてきた中東地区。
21世紀に入り、国家として機能を失ってしまったイラクとシリアの混乱状況に便乗して、
アブ・バクル・アル・バグダディなる人物を中心にしたテロリスト集団がこの地区で領土を強奪、国家を樹立しようとしている。
彼らは7世紀の預言者ムハンマドから始まったカリフ制国家を再興することを訴えている。
今までのテロリスト集団とは違い、残虐な行為を誇示するようで実はネットを使った巧妙なプロパガンダを展開し、収支を考えた略奪を行い、獲得した領土の住民から信任を得るための活動をするなど新しい試みを行い、国家の樹立を目指している。
著者は、人類史上かつてない実験が今中東地区で進行していると認識している。

といった感じだろうか。

この本を読むと、著者はイスラム国を表面上は否定するニュアンスで語っているが、その実、そのユニークな点に注目、この組織がこの後どのように成長、もしくは崩壊していくのかを深い興味を抱いて見つめていることがよくわかる。

現在、進行中の“事件”なので、これが10年後になると「ああ、そんなものがあったな」で終るか、「あのときは一般的にはまだそんな風にしか認識されてなかったのか」と、どっちになるのかは極東の島国で暮らしている私にはさっぱり予想もつかない。
ただ、中東地区におけるテロ集団というものが別の局面に進みつつあるのでは、と感じされられた本ではあった。

小学校6年の娘はこの本を「読んだ」と言っていたが、彼女には難しかったと思う。