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東村アキコの自伝エッセイ漫画「かくかくしかじか」第1〜4巻

かくかくしかじか 1かくかくしかじか 2かくかくしかじか 3 (愛蔵版コミックス)かくかくしかじか 4 (愛蔵版コミックス)

数年前に、週刊文春いしかわじゅんがこの作品を紹介しているのを読んで、興味を抱いていた。
やっと読むことができた。

いしかわじゅんがどう評していたかはもう覚えていない。
この漫画家の作品を読むのは初めてだ。

内容は、子供のころから漫画家志望だった東村アキコが、美大を受験に向けて絵の塾に通うことから始まる自伝エッセイである。
第4巻時点では、大学を卒業、社会人生活を経て漫画家デビューに至っている。
この物語の軸に設定されているのは作者と塾の先生との奇妙な“師弟関係”である。

非常にバランスの取れたうまい漫画家、という印象を抱いた。
漫画でもエッセイでも安定した面白さのあるものを書く人は、自分を客体化、さらに誇張して私はこんなにダメなんだ的なことをうまく語り、笑いをとりつつ、読者の共感を得るという手法をとるのが王道ではないかと思う。
この手法でうまい人というと、大昔で言えば、北杜生、遠藤周作、'90年代あたりでは原田宗典あたりだろうか。
最近の人だとあまり思い浮かばないが、一般的に“笑えて面白い”と言われるエッセイを書く人はこの流れを踏襲していることが多いように思える。
賢さと面白がりにおいてのセンスが問われるものだと思う。
そのあたり非常に手堅い内容となっていた。
多分この人はストーリー漫画も上手いと思われる。

読む前は、誇張した絵でつづられるエッセイ漫画の類かと思っていたが、ストーリー展開を読ませ、コマの絵の展開で見せる内容だった。
この先どうなる? 的な伏線も上手く張り、読み手を退屈させない。
美大受験の事情などを知らない人には興味深いかもしれない。

この漫画を読んで、この作家が宮崎の進学校を経て現役で難関の公立美術大学に入学、卒業したということを知った。
高校時代は美術部の部長。
そして社会人になってからは、3日間で描き上げた応募漫画を、初めて雑誌(ぶーけ)に投稿、受賞をしている。

この経歴を見ると、はっきりいって作者は、美術系におけるエリートだ。

それを読み手に感じさせず、むしろ共感させているのが、この人のストーリーテリングの上手さだ。

私は絵の上手さはあまりわからない人だ。
だが、表紙の絵を見たときにはまったく予想しなかったが、漫画を読んだ感想では、この人は漫画の絵が上手いのではないかと思った。
読んでいて「あれ?」と違和感を抱いたのは、“逢坂みえこ風”として描かれたカットくらいだった。

作者は高校時代「ぶーけ」が好きで内田善美、吉野朔美、松苗あけみといった漫画家を好んでいたと語られる。
それなら私も読んでいた。

面白く読めたので、この作家のストーリー漫画は読んでみることにする。