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映像、書物、音楽などについての感想

エド・キャットムル「ピクサー流 創造するちから 小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法」

書籍 自伝・評伝

ピクサー流 創造するちから―小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法

ピクサー流 創造するちから―小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法

書評などで評価が高かったので読んでみることにした。
著者のエド・キャットムルは、アニメーションスタジオ、ピクサーの共同創設者。
現在はピクサー・アニメーションとディズニー・アニメーションの社長を務めている。
また、ユタ大学でコンピューターサイエンスを学んだ元科学者でもある。

この本を読むと大学院の同期にはジェームズ・クラーク、ジョン・ワーノック、アラン・ケイといったIT関係で名を成した人がいたことが語られている。
ジェームズ・クラークは、シリコングラフィックスネットスケープを設立した人物。
ジョン・ワーノックは、アドビの共同設立者。
アラン・ケイは、パーソナルコンピューターの歴史の本を読めば必ず登場する非常に有名な人物だ。

非常に優れた人たちと、ユタ大学大学院の自由な気風の環境で学んだことがわかる。

この本は、エド・キャットムルという人間の自伝だが、ほかの局面から読むこともできる書籍だ。
・企業マネジメント論
・芸術(エンタテインメント)と科学(技術)、またクリエイティブとビジネスの理想的な共存について書かれた本
そんな面からも読むことができる。

以下、読んだ感想メモ。

非常に面白い内容だった。400ページを超えるボリュームだが、ほぼ集中して読むことができた。
何よりも著者の物事に対する変わることのない"姿勢"に感銘を受けた。
素直であり、オープンであり、情報共有を徹底し、議論を恐れず、向上心を抱き、イノベーションを続ける。
私のイメージにある、良い意味でのアメリカンという感じだ。

著者の半生はいくつかの局面を経て現在に至っている。
(1)少年時代は、ディズニーのアニメーションに大きな影響を受け、アニメーターになることを考える。
当時、最も憧れていた人物はウォルト・ディズニーアルベルト・アインシュタインだったという。
(2)絵画的才能に欠けることを自覚し、大学では物理学、コンピューターサイエンスを学ぶ。
(3)大学院でコンピューターサイエンティストとして黎明期のコンピューターグラフィックスを学び、コンピューターを使ってアニメーションを作ることを志す。
こんなことを書いている。

私はこのとき初めてアートをつくることと、新種の映像をつくるための技術を理解することを同時に行うという体験をした。
コンピュータで絵を描くときは、右脳と左脳の両方を使う。
1969年当時、コンピュータで描ける絵は非常に粗く稚拙だったのは言うまでもないが、新たなアルゴリズムを考え出し、その結果として絵の質が改善されたことを確認できるのは、たまらなくドキドキすることだった。
子どもの頃の夢が再び蘇ったと言ってもいいかもしれない。
26歳で私は新たな目標を持った。それは鉛筆ではなく、コンピュータを使ってアニメーションを作る道を開くこと、そして映画に使えるくらい美しく、説得力のある映像をつくること。
もしかしたら、これでようやく自分もアニメーターになれるかもしれない。P33

ここが、著者にとっての大きな転機となったように思える。

(4)「スターウォーズ」で名を上げたジョージルーカスと出会い、ルーカスフィルムに入る。
(5)ルーカスフィルムのグラフィック部門のマネジャーとして活躍する中、ディズニーのスタッフだったジョン・ラセターと出会い、彼をルーカスフィルムに招く。
(6)ルーカスがグラフィック部門の売却を検討することになる。アラン・ケイの計らいでスティーブ・ジョブズと出会う。
(7)スティーブ・ジョブズと出会い、彼の資金でグラフィックに特化したコンピューター会社のピクサーを設立する。
(8)ディズニーと協力してピクサーCGアニメーション映画「トイ・ストーリー」をジョン・ラセターを監督に製作。
(9)アニメーションスタジオとして数々のヒット作、秀作を生み出し続ける。その中でも試行錯誤を続ける。
(10)スティーブ・ジョブズの勧めでディズニーとピクサーが合併する。
(11)ディズニーのアニメーション部門のトップも兼任することになる。
(12)低迷期にあったディズニーのアニメーションスタジオのテコ入れを図る。
(13)ディズニーのアニメーションスタジオを生まれ変わらせ「シュガーラッシュ」「アナと雪の女王」「ベイマックス」など内容も充実したヒット作を連発する。

以上のように、一人の企業家のドラマとしても面白い。
そして、その物語にはスティーブ・ジョブズジョン・ラセターブラッド・バードら才気あふれる脇役が多数登場してくるのも読みどころだ。

本の最後は、「終章 私の知っているスティーブ」と題して25年になる付き合いとなったスティーブ・ジョブズについて語っている。
毀誉褒貶の多いスティーブ・ジョブズだが、著者はジョブズに対して誠意のある姿勢を保ち、長年の付き合いのなかで変化していったジョブズについて語っている。
ちょっと泣かせる内容だ。

この本は大著であるため、アマゾンのレビューで否定的なコメントを残した人は"冗長"という言葉でこの本を説明していることが多かった。

だが、著者はこの本を書く際に、コンパクトに書くことを否定することを宣言。そして著述を進めていたのだからそれは的外れだろう。
最後にこんなことを語っている

私はこの本で一貫して「真実の短縮化」を否定してきた P403

そして文中では、偶発性に対する施策として、シンプルに捉えようとする「オッカムの剃刀」を否定的な引き合いとして論を展開している。
そして「確率過程の自己相似性」という概念で偶発的事故への対応策を語っている。
この部分は、なかなか妙な(興味深い)論の展開である。

といいながら、巻末付録として企業運営の指針を箇条書きにしたものを載せているのが親切ではある。

以下のようなことが書かれてある。

◆よいアイデアを凡庸なチームに与えればそのアイデアを台無しにし、凡庸なアイデアを優秀なチームに与えれば、それをテコ入れするかもっといいアイデアを返してくれる。よいチームをつくればよいアイデアにめぐまれる。
◆人を採用するときは、そのときの能力レベルより、これからの伸び代を重視すべきである。今できることより、将来できるようになることのほうが重要である。
◆つねに自分より優秀な人を採用するように心がける。それが脅威に感じられる場合でも、つねによりよいほうに賭けること。
◆他人のアイデアを受け入れるだけでは不十分。能動的かつ継続的に社員の集団的知力を動員すること。マネジャーとしてスタッフからアイデアを引き出し、定期的な貢献を促すこと。
◆会議室より廊下で真実が語られているとしたら、会社として問題がある。
◆人より後に部下から問題の報告を受けたり、会議で初めて問題を知らさせたりすることをけしからんと思うマネジャーが多いときには、対処が必要である。
◆リスクを回避することはマネジャーの仕事ではない。リスクを冒しても大丈夫なようにすることがマネジャーの仕事である。
◆失敗は必ずしも悪いことではない。むしろ、まったく悪いことではない。新しいことをするときに必要な成り行きである。
◆信頼とは、相手が失敗しないことを信じるのではなく、相手が失敗しても信じることである。
◆計画実行の最終的な責任を持つ社員には、問題が起こったときに承認を得なくても問題に対処できる権限を与えなければならない。問題を見つけて対処するのは全社員の仕事である。誰もが生産ラインを止められるべきである。
◆人に見せる前に完璧にしようとしないこと。早く頻繁に人に見せること。途中段階は見られたものではないが、だんだん見られるようになる。そうあるべきだ。
◆限界を課すことで創意工夫が促進される場合がある。卓越性は、厄介な状況や、理不尽とも思える状況から生まれることがある。
◆組織は、それを構成する個人よりも、集団として保守的であり変化を嫌う。基本合意だけで変化が起こることを期待してはならない。メンバーが揃っていても、グループを動かすには、それなりのエネルギーが必要だ。
◆「すばらしいアイデアが生まれるためには、すばらしくない段階が必要」なことを理解しない人から新しいアイデアを守ることが、創造的な環境におけるマネジャーの仕事である。過去でなく未来を守ること

上記のことを実体験に基づいて書いているのがこの本である。


原題は「CREATIVITY,INC.」。
まさにそんな内容だった。

まだまだ書きたいことはあるが、この辺にしておく。
後日、修正・更新したい。