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クレシッダ・コーウェルの児童文学「ヒックとドラゴン11 孤独な英雄」

孤独な英雄 (ヒックとドラゴン)

孤独な英雄 (ヒックとドラゴン)

第9巻から始まった「ヒックとドラゴン」の最終章の3巻目。いよいよクライマックスの直前になってきた。

このシリーズは年老いた偉大なバイキングヒーロー、ヒック・ホレンダス・ハドック三世の少年時代が描かれた自伝、という形式をとっている。
そして今回の前書きで、次の第12巻でこの物語が終ることが語られる。


読み終えてみると、この第11巻は、このシリーズの中でヒックの活躍がほとんどない巻となっていた。
いつもは決め所のクライマックスでヒックの胸のすくような活躍があるのだが、それがない。
印象としては、物語最大のクライマックスを前にした最も暗い巻だった。
もちろん面白いのだが。
神話の構成でいえば、このセクションは"全てを失う""死の経験"にあたる部分なのだろう。
ヒックはやられっぱなしでボロボロだ。
そんな11巻だが、別の意味での大きな盛り上がりがある。

ヒックといじめっ子、スノットの関係である。
モジャモジャ族かしらの一人息子であるヒックを妬み、ずっとヒックをいじめ嫌がらせを続けてきたスノット。

さらには何度も裏切りによってヒックを窮地に追い込んだ彼がついにヒックのことを“王”として認め、和解するのである。
和解したヒックとスノットは素晴らしいコンビぶりを見せる。
だが、その和解は悲しい結末を迎える。
これはシリーズを通しての大きな山場の一つであると思う。
この巻ではスノットがヒーローとなる。

かなり感動した。

いよいよ次の第12巻で少年ヒックの物語は終る。

フュリオス率いるドラゴン軍団、ヒックを宿敵とするアルビンと母はどうなるのか?
ドラゴンと人間の共存していたバイキングの社会はどうなるのか?
シードラゴンであることが判明したトゥースレスとヒックの関係はどうなるのか?

これを収束させるのは大変だと思う。
だが、この作家は構成力、表現力が相当あるのでいい感じで終えてくれそうな気がする。

子供向けに書かれている小説だが、物語に深みがあり、キレがあり、クライマックスの見せ場が素晴らしい。
漫画で探しても、これだけの作品はなかなかないと思う。
個人的には「ガフール」「ダレンシャン」などより「ヒック」の方が上である。

次巻で終るのは残念だが、また時間があるときに再読したいと思っている。