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伊坂幸太郎の長編小説「夜の国のクーパー」

伊坂幸太郎の小説は読みやすく、読後感が悪くないので気晴らしに時々読んでいる。
今までに読んだのは以下のタイトル。

「オーデュボンの祈り」
ラッシュライフ
「重力ピエロ」
アヒルと鴨のコインロッカー
グラスホッパー
「死神の精度」
「魔王」
「終末のフール」
「フィッシュストーリー」
ゴールデンスランバー
「モダンタイムス」
「マリアビートル」
「死神の浮力」

個人的には「マリアビートル」と「死神の精度」が気に入っている。

死神の精度 (文春文庫)

死神の精度 (文春文庫)

逆に、この作品群のなかで下位にくるのは「オーデュボンの祈り」「終末のフール」あたりになる。

今回読んだ「夜の国のクーパー」は「オーデュボンの祈り」の系譜にある作品だった。
主人公が現世と違う異世界に迷い込む話である。
「オーデュボンの祈り」の舞台は、カカシがしゃべる、奇妙な世界だった。

今度はネコがしゃべるどこかの小さな国に主人公が迷い込んでいる。
内容についての説明は省く。

あとがきを見ると著者は大江健三郎の「同時代ゲーム」から影響を受けたと書いている。

同時代ゲーム (新潮文庫)

同時代ゲーム (新潮文庫)

私の世代において「同時代ゲーム」は非常に重要な小説だったのでちょっと親近感を抱いた。
かつて「ロッキンf」というロック雑誌があったが、「同時代ゲーム」が発表された際、何ページも使ってこの小説の特集をしていたことがあった。編集者の好みもあったのだろうが、当時の大江作品はそういうインパクトを持っていたのだ。
ロック雑誌で「同時代ゲーム」を特集していたことは、今から思うと、なかなか感慨深いものがある。
(上記の記述については未確認。「ロッキンf 同時代ゲーム」で検索したが何も引っ掛からなかった。勘違いではないと思うのだが、誰もそのことを書いていないということは別の音楽誌だったのか……)

ちなみにロッキンfは後にヘヴィメタル系の雑誌となった。

ただ、「同時代ゲーム」のうねうねと読みづらい文章が築き上げた壮大な世界と比較すると、こちらは正直小粒で薄味な印象ではある。
というか、今回の作品はどこが面白かったのかよくわからなかった。
一応、謎の提示とのその解消というミステリー仕立てにはなっているのだが……
ネコ好きの人が、しゃべるネコたちの描写を読んで面白く思うのかもしれない。
ただ、私にはわからない。
とはいえ、相変わらず読みやすいので面白いも何もなくあっという間に読了してしまった。

伏線とその収束という仕掛けはいつものようにあったが、結論的に「で、どうしたの」という感は否めない気がする。
伊坂作品でうまくそれが作用したときのカタルシスはこの作品にはあまり感じなかった。

あの「マリアビートル」の後に発表された小説とは思えなかった。