見て読んで聴いて書く

映像、書物、音楽などについての感想

アレクセイ・ゲルマン監督の映画「神々のたそがれ」

私は特に映画好きというわけではないので、この映画の存在は知らなかった。
同じ職場にいたシネフィルの男性2人から教えられて見ることにした。
ニーチェの馬」と同じくらいの衝撃はありますと、そのうちの1人から言われたので。

ニーチェの馬 [DVD]

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「ニーチェの馬」を見た感想メモ

監督はソ連−ロシアで有名な監督らしいが、私は知らなかった。
(後にこの人について書いた文章は読んだことがあることを思い出した。例によって忘れていた)
この作品が遺作とのことだ。

原作はSF作家アルカージー&ボリス・ストルガツキー兄弟の小説だった。
この作家については「ストーカー」だけは読んだことがあった。
恐ろしく昔に読んだので、内容はおぼろげにしか覚えていない。
だが、独特の読後感があり、かなり気に入っていたことは覚えている。
タルコフスキー監督の映画版も気に入っていた。

ストーカー (ハヤカワ文庫 SF 504)

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「神々のたそがれ」の原作の邦題は「神様はつらい」。
英語タイトルは「Hard to be a God」。
確かに意味はその通りだが、「神様はつらい」では「男はつらいよ」みたいである。
“芸術映画”としてはこれはまずいというこで、「神々のたそがれ」となったのだろう。

「神々のたそがれ」から「ルートヴィヒ 神々の黄昏」、北欧神話ワーグナーの「ニーベルングの指輪」などを私は連想したが、映画を見てみたら何も関連するものはなかった。
まさに「神様はつらいよ」という内容だった。
主人公も劇中で、そうつぶやいている。

※後で「神様もたそがれちゃってる」てことでこのタイトルをつけた、と考えることもできると思い至ったが、さすがにそれはないだろう。

公式サイトのストーリー紹介の冒頭はこんな感じ。

地球より800年ほど進化が遅れている別の惑星に、学者30人が派遣された。その惑星にはルネッサンス初期を思わせたが、何かが起こることを怖れるかのように反動化が進んでいた。

ただ、そのあたりの説明はほとんどない。

主人公はこんな感じ。

地球から派遣された学者の一人に第17代貴族ドン・ルマータと名乗る男(レオニド・ヤルモルニク)がいた。ルマータは、地域の異教神ゴランの非嫡出子であるとされていた。誰もがこの話を信じたわけではないが、皆ルマータのことを警戒した。

映像での世界は雨ばかり降り、地面はドロドロのぬちゃぬちゃ。室内も乱雑を極め、ぐちゃぐちゃである。
そのヌルヌルぐちゃぐちゃの世界で、なんの進歩も見込まれないような政争が繰り広げられる話である。
ドラマ構成としては、主人公のキャラは立っているが、物語はぐちゃぐちゃの世界で何の希望もない争いがくり返されていくという展開だ。
そして、それが人間の営みというものだという落としどころとなっている話である。
まあ、ストーリーとしては、こう言ってしまうとなんということはない話である。
鑑賞どころはストーリーではなく約3時間に渡って繰り広げられるそれぞれの映像、そこから浮かび上がる世界なのだろう。

ものすごくおおざっぱで誤解を招く説明だが「ニーチェの馬」が研ぎ澄ました映像話法で語る“詩”とすると、「神々のたそがれ」は饒舌な映像情報のぶちまけで展開する“散文”とでも言えるのかもしれない。
そんなことを思った。
映画に詳しい人はそれは違うと思うかもしれないが、そんな印象だった。

そして“饒舌な映像のぶちまけ”である“絵”は非情に見どころがあった。面白い。
ただ、その見せる“絵”をあまり見せ場として構成せずに展開しているのがこの作品だ。
多分意図的なものなのだろうが、私のような視覚映像読解能力が劣っている人間には判別することができず、スルーしてしまっているものも多くあった。
初見ではちょっとついていけないものも感じた。
ブルーレイとかで、家で大画面で見るといいかもしれない。

はらわたが死体からドロドロと落ちてくるシーンなどは見る人によってはキツイかもしれないが、モノクロ作品なので、私個人としては許容範囲だった。
カラーだったらどうなったのかというところは興味深いところだ。

また、ルネサンス期の世界ということで、見ていてブリューゲルボッシュあたりの絵画にあったものを感じた。

そして映画とまったく離れるのだが、「ボッシュ的な世界がある惑星」ということで、荒巻義雄の初期SF小説「神聖代」を思い出した。

神聖代 (定本荒巻義雄メタSF全集 第 6巻)

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「神聖代」はもしかしたら小説「神様はつらい」から多少影響を受けた面があったのかもしれない。
ただ「神聖代」の具体的内容をまったく覚えておらず「神様はつらい」を読んでいないので、単なる勘違いかもしれない。

「神様はつらい」と「神聖代」は読んで見ることにする。
「ストーカー」も再読したい。でも時間が……