見て読んで聴いて書く

映像、書物、音楽などについての感想

柳沢きみおの漫画「大市民 最終章」

 

大市民 最終章 (アクションコミックス)

大市民 最終章 (アクションコミックス)

 

主人公と完全に一体化した作者が、最終章で食、愛、人生を説く!

 漫画家・柳沢きみお氏の代表シリーズのひとつである「大市民」。

ちょっとした物語に、作者のうんちくを主人公が語るという形式で、不定期だが長年連載されていた。

そして、年を経るごとに物語要素は減り、作品のウェイトはうんちく語りに移行していった作品でもある。

その最終章として2015年9月に双葉社から発行された単行本が今作。

「長い漫画家生活で初めての書き下ろし」と本人があとがきで書いていた。

 

ページをめくってびっくりした。

扉1ページ目が著者近影なのだ。転載させていただく。

 

f:id:allenda48:20160901000256j:plain

 

ドでかいタイトルの下に著者の写真。

ご丁寧にも写真下には

柳沢きみお -著者近影-

とあり、出身地、生年月日、代表作とプロフィールが書いてある。

漫画の単行本で、こんなデザインの扉は今までに見たことがない(と思う)。

 

大市民・山形鐘一郎は、つまり柳沢きみお

ということである。

山形の姿をした柳沢が、食、健康、愛、生、死などなどを語っている漫画なのだ。

 

ただ、山形と著者の写真を見るとまったく似ていない。

 

だが、たまたまネット上で柳沢氏の写真を発見した。

この程度の掲載は許されると思うのでここに載せておく。

すみません柳沢先生。

f:id:allenda48:20160901000334j:plain

 男らしい風貌のいい男である。そして意外に山形に似ている(ような気がする)。

どの雑誌に掲載されていたのかはわからないが、

私もこの写真は見たおぼろげな記憶がある。

若き日の柳沢氏の写真だと思う。

 

以下、内容について書く。

 

エッセイでも絵を描くことへのこだわりがなくなっていると語っている柳沢氏だが、

今回の漫画、さらに絵が大変なことになっている。

描かれている絵は数パターンしかない。

基本が山形のバストアップ。顔のアップ。手のアップ。

そしてマンションの外観。

 

酷いものになると、

1ページ10個のコマに山形の顔アップの絵がひとつ。残りのコマは文字だけ。

そんなページもある。

 

さらにすごいのが、この漫画には生きている人間は山形しか登場しないということだ。

 

山形がバストアップ、もしくは顔のアップで延々と飲み、食べ、語り続けるのだ。

 

そして、その絵はうまい、といえる仕上がりではない。

 

これはもはや、漫画として出すものなのだろうか。

これを出すのなら、文章のエッセイとして、数点の挿絵も描くことにしたほうがよかったのではないかという気もする。

 

そして内容が面白かったかについてだが、

一方的な山形(柳沢氏)の一人語りとなってしまっているので、メリハリの乏しい一本調子となっていることは否めない。

やはり相手がいてやり取りがないと、なかなか面白いものにはならないと思う。

「大市民」の面白さは、我が道をいく大市民・山形と彼に絡む“小市民”とのコントラストの面白さだったような気がする。

 

さらに、私は柳沢氏のエッセイ「なんだかなァ人生」を読んでいるので、ここで語られる、山形(柳沢氏)の衝撃的な放蕩ぶりを知っている。 

なんだかなァ人生

なんだかなァ人生

 

 

そのため、その逸話には引き込まれることがなく、ちょっと物足りないものを感じたのが正直なところだ。

長年続き、私も愛読していた「大市民」の“最終章”と銘打つにはちょっと残念ではあった。

 

私は柳沢氏の漫画は好きだが、彼の漫画の魅力は何かと聞かれるとうまく答えられない。

 

ウィキペディアを見ると作品の傾向として

 

柳沢作品は、決して流行を追わない大雑把だが色気のある絵と、大味ながらリーダビリティの高いストーリーで作られる

 

“大味ながらリーダビリティの高いストーリー”という説明には私もある程度納得できる。

 

絵については“大雑把”というのは、まさにその通りだと思う。

“色気のある”については、何を色気と考えるかによって、それぞれ意見が分かれるのではないだろうか。

私は近年のくどい絵を“妙に生々しい”と思うが、色気とはあまり感じない。

 

自分にとっては、柳沢先生の漫画の魅力は、視覚的なものでなく、ストーリー、キャラクターの部分にあるのではないかと思う。

そして、独特の大衆性が大きな魅力になっているような気がする。

 

大衆に迎合することを嫌いながらも、エリート志向、ペダントリーに陥らない“共感を得られる”物言いが作品の魅力のように思える。うまく言えないが。

 

いずれ小説も発表すると思えるので、出たら読んでみようとは思っている。