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マーキュリー・レヴのアルバム『ザ・ライト・イン・ユー』

 

ザ・ライト・イン・ユー

ザ・ライト・イン・ユー

 

 1曲1曲の流れが素晴らしい完成度の高い秀作

2015年の秋に発表された8枚目のアルバム。

正直あまり期待せずに聴いたのだが、びっくりするほど良かったので感想を残すことにする。

 

マーキュリー・レヴというと私の印象は、おおむね

“甘い歌のバックに奇妙でドラマチックなバンドサウンドが展開する”

という感じだ。

 

それが、2008年の前作『スノーフレイク・ミッドナイト』と無料版の『ストレンジ・アトラクター』で往年のジャーマン・ロックのような内省的なエロクトロニック路線に走り、それっきりアルバムは発表されていなかった。

正直、この2つはあまり気に入っていなかったので心は離れていた。

なんでノイやハルモニアをやる必要があるのかさっぱりわからなかったし、そこに面白さはあまり見いだせなかった。

 

ほかのリスナーもそうだったのかもしれない。

アマゾンにはこの新作のレビューが一つも載っていない。

『ディザーターズ・ソング』『オール・イズ・ドリーム』『ザ・シークレット・マイグレーション』には思い入れたっぷりの絶賛のレビューがたくさん載っていたのに……

 

ディザーターズ・ソング

ディザーターズ・ソング

 

  

All Is Dream

All Is Dream

 

  

Secret Migration

Secret Migration

 

  

 今回の『ザ・ライト・イン・ユー』には、エレクトロ路線は全くない。

以前あった大音響による大げさな展開の曲もない。

毒気の抜けたやたら甘いポップスと評されかねない内容かもしれない。

だが、これが非常によかった

内省的で甘く、メロディアス。そして曲がよく練られている。

そして特筆すべきが、配置された曲の流れが素晴らしいこと。

最近のアルバムには全体を通して聴きとおしたくなるものは多くない。

だが、この作品は最後まで聴きたくなるアルバムになっている。

こんなアルバムは久しぶりだ。

 

聴いたのは輸入盤だったのだが、わざわざ日本版のライナーを取り寄せて読んでみた。

訳詞も参考になった。

 

アルバムの内容は、身も蓋もなく言うと

“孤独に打ちひしがれた魂が回復するまで”

という流れとなっている。

 ボーカルのジョナサン・ドナヒューの経験を色濃く反映したものとなっているようだ。

 

ありがちといえば、ありがちな内容だが、非常に完成度が高い。

 

内省的で沈んだ心理的状況が次第に回復、開放されていく流れが曲の配置で見事に表現されている。

正直いって結構、感動してしまった。

 

アルバムについての情報をネットや雑誌から集めようとしたのだが、非常に少ないので驚いた。

7年ぶりとなるアルバムだが、その間に世の中から忘れられてしまったのかと思うくらいである。

昨年、来日したそうだがあまりに話題にはならなかったようだ。

 

音楽の良しあしなんて流行りとは関係ないと私は思っている。

なので、このアルバムがあまり話題になっていなかったのはかなり残念だ。

アマゾンにレビューを書いていた人はもうこのバンドを聴いていないのだろうか。