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映像、書物、音楽などについての感想

新海誠監督のアニメ映画「君の名は。」

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日本的デートムービー!? アイデア満載の良心的作品

会社の以前の同僚のシネフィル2人に評価を聞いたところ「面白かった。よかった」との言葉だった。
アニメにうるさい別の友人も「よかった」と言っていた。
ただ、シネフィルの元同僚は「いいなと思ったんだけど、その後『レッドタートル ある島の物語』を見た。そうしたら、自分はやっぱ『レッドタートル』のほうなんだと思った」と語っていた。
「レッドタートル」は見たかったのだが、すぐに上映が終わってしまい見ることができなかった。
逆に「君の名は。」はロングランとなったおかげで見ることができた。

非常に面白く、見ているときはなかなか心揺さぶられた。
男女入れ替わり、時間差ギャップ、彗星衝突と避難、夢を見ること、失われる記憶、名前というものの意義、美しい日本の風景、挿入歌と内容のシンクロ、などなど
さまざまなアイデアを組み合わせ、それをテンポよく構成した内容で、見ていて集中が途切れることがなかった。
そして私の感想としては、“良きもの・美しいもの”を創ろうとする制作者の姿勢が感じられ好感を抱いた。
作品にはめんどくさい“邪悪なもの”はまったく出てこない。
めんどくさい思いをしないで見ることができるので楽ちんである。

いい意味で真面目さが活きている誠実な作品だったように感じた。

映像については編集がいいように思った。

私は20:30からのレイトショーで見た。公開から3ヶ月になるが、レイトショーとしてはいつもより込んでいた。一人で見たが、客のほとんどがカップル。
デートムービーにはうってつけの作品だと思う。

とても好感の抱ける作品なのだが、上記のシネフィルの元同僚が、面白いといいながら、同時期に公開された「レッドタートル」を支持するといった言葉でこの作品のあり方は説明できるような気がする。

君の名は。」は優れた商業作品、デートムービーであり、アート、芸術作品ではないのだ。
別にアート、芸術作品が偉いということではない。
あらかたのアート、芸術作品と称するものより格段の完成度の高さ、魅力がこの作品にはある。
ただ、「君の名は。」は見たまんまの作品なのだ。

アート、芸術作品というものには、見たまんまで理解できるところからはみ出た“何か”があり、それがある独特の深さ、味わいを出しているものだと私は思うが、私はそれをこの作品には感じることができなかった。あくまでも私の初見での印象だが……

この作品を見た後、深く考える人はいないだろう。
人生観が変わる人はいないだろう。
「エル・トポ」を見て人生が変わる人はいると思う。

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 そういう意味では同時期公開の「シン・ゴジラ」は正反対の作品だ。
メタファーになっているのかもわからないが、含みのある表現だらけの内容が魅力となっている。作品をどう読むかがお楽しみのひとつになっているのだ。

君の名は。」ではアイデアのネタ、出所が話題となることはあっても、それで深く考えるということまでには至らないと思う。

悪い意味でなく、“浅く、思想がない”作品ということなのだと思う。

ともあれ「君の名は。」は面白く鑑賞でき、新海監督にも興味を抱いたので他の作品も見てみることにする。
製作・川村元気というクレジットがあるが、川村元気のかかわらなかった以前の作品を見ると今作での変化がわかるかもしれない。