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アーシュラ・K・ル・グィンの小説「ロカノンの世界」

 SFではあるが、ファンタジー色の強いル・グィンの初長編

 アーシュラ・K・ル・グィンの長編小説第1作。

発表されたのは1966年、今から半世紀前だ。
ル・グィンは1929年生まれなので、当時37歳。
若いという年齢ではない。

この小説は、ル・グィンが連作として書き続けた"ハイニッシュ・サイクル"シリーズの第1作目でもある。
私はこのシリーズの作品をまとめて読み始めたところなので、詳しくは語れないが、シリーズの趣旨はこんな感じなのだろうか。
間違っていたらすみません。

未来社会。高度に発達した文明を持つハイン人は宇宙に進出、知的生命体と接触を重ね、文化、経済交流を持つ平和的かつ相互扶助的な連盟を築きあげていた。
一方で、それと反目する武装派組織との戦いも生まれていく。
やがて、人類も連盟の一員となり、未知の知的生命体との交渉に参加していく。
各小説は、ハイン人の連盟の活動、影響を軸として、そのときどきの特定の惑星での事件を描いた年代記となっている。
そして、強調して書かれてはいないが、それぞれの年代記でのつながり、因果関係、歴史の流れは読み取れる構成にもなっている。
各話のパターンとしては、“使節”“調査隊員”として異星人の世界を訪れた主人公(基本的に人類)が、異文化と交流しながらそこで巻き込まれたトラブルを解決するために、現地の異星人と共に冒険の旅を繰り広げるというものが多いようだ。

ル・グィンの作品なので単純化して説明するのは難しく、シリーズの全貌も把握できていないのでピント外れな点もあるかもしれないが、大雑把には、現状ではそんなものと理解している。


「ロカノンの世界」は、その“ハイン年代記”シリーズの第1作にして、彼女の長編第1作だ。

こんな話である。

舞台となるのはフォーマルハウト第二惑星と呼ばれる銀河系辺境の惑星。
そこには大きく分けて2種類の知的生命体が暮らしているが、文明は封建時代、前近代のレベル。
1つの種族は輝くような金髪で美しい顔立ちの貴族的なアンギャ―ル族、そしてもう一つはファンタジーの世界に登場するような小人族。

連盟の調査隊のリーダーとしてこの惑星を訪れ、アンギャ―ル族の元に滞在していたロカノンは、連盟と敵対する戦闘的な組織の爆撃により仲間と、輸送・通信機器を失ってしまう。
彼は、アンギャ―ル族、小人族らとともに、敵の持つ通信機を使って連盟に連絡を取り、敵地を爆撃させるため、惑星の遠く離れた場所に向けて冒険の旅に出る。

 萩尾望都によるカバー表紙のイラストにあるように、“風虎”と呼ばれる生き物を駆り、空を飛ぶシーンが強く印象に残る作品だった。

アマゾンの書評では"少女趣味"と評していた人もいたが、そんなテイストのある作品だ。
金髪で美しい貴族のような種族と小人族、そして空を駆ける風虎。そして冒険。
一般的なファンタジーといわれる特色が強い作品だった。
そして処女長編ということもあるのか、文章は瑞々しく情感に富んだ仕上がりとなっていた。


とはいえ、処女作には作家のその後の作品の原型となるものが多々あるということはよく言われるが、この作品もその点で興味深いことが多々あった。

・異なる文化にある者同士が出会い、旅をする
・地図を見て読むとより楽しめる世界の地理的構成
・ファンタジーの物語設定だが、安易に白色人種を優位に置くことを排すること。アンギャ―ル族は金髪だが肌は黒い
・「誰が何をしてどうなる、どんな話」という説明だとこぼれてしまう、多義的な物語となっている。そのため感想が書きづらい
・再読したときに物語、世界に対する理解がより深まり、楽しめる

ほかにも色々あると思うが、上記の点は彼女のその後の作品と共通するものがあった。

ともあれ、私自身は読み物として美しい文章とそこで描写されるファンタジックな世界を堪能することができた。
「闇の左手」よりはとっつきやすい小説だと思う。

ル・グインの「空飛び猫」シリーズを翻訳した作家の村上春樹は、あとがきでこう書いている。

空飛び猫 (講談社文庫)

空飛び猫 (講談社文庫)

 

ル・グィンはSFファンタジー作家ということに一応入れられている人ですが、とてもうまい綺麗な文章を書く人で、女性の文章家の中では僕がいちばん好きな人のひとりです。

私は原文ではゲド戦記を少し読んだ程度で、あとは全て邦訳だが、"とてもうまい綺麗な文章を書く"というのはわかるような気がする。
特に、すでに読んだ「ロカノンの世界」「辺境の惑星」については"綺麗な文章"を翻訳からも感じた。

ちなみに「風虎」だが、オリジナルの英語版はどのように表記されているのか、興味を抱いた。

ネットで見るとどうやら、wind tigerではないようだ。
"windsteeds" basically large flying cats, という表現がネット上であった。英語では"windsteeds"ということだろうか。
このままだと風馬である。ただ、ネコ科の外観なので馬のようではないだろう。
もしかすると作者のイメージでは、虎というよりは空飛び猫の巨大バージョンだったのだろうか。
もしくはトトロ的な?ネコバス的な?
ル・グィンが「となりのトトロ」を見て気に入ったというのが何かわかった気がした。

表紙イラストもペーパーバック版だと下記のように萩尾望都版とは大いに違っていた。
私は萩尾望都版が一番作品に合っているような気がする。

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 サンリオ文庫版は竹宮恵子が「ロカノンの世界」「辺境の惑星」「幻影の都市」3作のカバー表紙を書いていたようだ。

つらつら書いたが以上とする。また更新するかもしれない。