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石原慎太郎「国家なる幻影 わが政治への反回想」続き5

やっとすべて読み終えた。結局読み飛ばしはなかった。衆議院議員を辞職するまでを語っている。
大韓航空機墜落事件の真相」「ニューリーダーたちの素顔」「運輸省で」「亡国外務省との闘い」「不毛なる総裁戦」「『NOと言える日本』」「湾岸戦争の本質」「自己崩壊する政治-小選挙区制の滑稽」「ふり向いてくれ、愛しものよ」の9章。
通して見ると、
本書のクライマックスであるアキノ氏の暗殺以降は、文章のトーンが淡々となり、仕事を粛々とこなしていくように変化した印象がある。
気のせいか。
ある種、政治の世界での自分の活動の限界について暗示しているようなものに変化していく。

首領として祭り上げようとした中川一郎の自殺。
権力の中枢に上るには金にあさましく動かなければいけないということ、そしてそれが自分ができないということ。
読んでいて、そのあたりが著者にとっての政治活動での大きな岐路となったように思える。

総裁選への立候補もしたが、かつての東京都知事選への立候補と同様、
冷めた思いながら事情により出馬したとのことを述べている(実際はいろいろな思惑があったと思うが)。
権力の中枢へ上り詰めることがかなわず、その中ですべきことをしていったという論調に変化していった感が。

この本でよく取り上げられる外国はアメリカと中国だが
この部分ではアメリカが自らの利益のため起こしたという2つの大きな事件のことをとりあげている。
1つは、大韓航空機墜落事件。
米国はかつてのソ連との冷戦関係において、ソ連軍事施設のチェックのため韓国の民間機を使い、ソ連に領空に進入させた。そしてそれが撃墜事件を起こしたと述べている。
2つ目は湾岸戦争
湾岸戦争はアラブ産油国を支配するために(ものすごく大雑把にいえば)イラクを育て、クエートに侵攻させ、その上でイラクを叩いて米国の軍事的影響下にアラブ諸国を置こうとしたと述べる。
この2つは現在では公な記録としてではないが、かなり信憑性のあるものとして流布している説である。
そして著者は、湾岸戦争において、イギリスの7万人の兵力よりも、日本の提供した半導体などハイテク技術が貢献したと再三、主張している。
さらに、湾岸戦争当時、十分な影響力を持つ国でいながら首相だった海部俊樹の国際舞台でのふがいなさについて大いになげいている。

著者自身はそうした米国の動きを声高に非難はしていない。
自国のためになりふりかまわず行動することについては留保つきだが是としている感がある。

ほかにも諸々語っているが興味深かったのは小沢一郎に対する印象。
著者によれば、小沢は
田中角栄から引き継がれていった派閥、経世会
竹下、金丸の流れを受け継いだだけで、
政治的なビジョンとしては貧しいものしかもっていない評するにはほとんど当らない人物、
となるようだ。

国家論はないのだが、節々の言葉から著者の国家についての思いはうかがい知ることはできた。

数ヶ月前に読んだ同じ著者による「私の好きな日本人」の冒頭に
P7「(それぞれの民族の神話には)なんといおう、一種の透明感の内に形作られた逞しくも悲しい男のイメイジとしてある。
それら神話の英雄というのは、ある意味で男の理想ともいえそうだ。
国家といえば大袈裟にも聞こえようが、人間が人間として生きていくために避けることの出来ぬ一つの組織、社会の中での他者との関わりのために、自己犠牲によって仲間たちを救いその安寧のために尽くすという献身は、男にとって、男としての宿命ともいえるだろう。
しかしなお、その宿命に甘んずる男はめったにいるものでもない。
それが命がけということになれば、その責務をまっとうしきる男なぞざらにいるものではない」
これはまさに、ベニグノ・アキノ氏のことである。彼は日本人ではないのでこの著作には登場しないが。

以上、
気になる部分をメモした。ほかにもあるが書いているときりがなくなりそうなので省く、また機会があれば追記したい。

毀誉褒貶の多い人だが、
この600ページ以上の本を読んだ印象では書いていることは一貫しており、“まっとう”なことを明快に書いていると思う。
観念的な部分については独特な文体の部分もあるが、全体として読みやすくかかれており
この著作内では整合性もあり説得力もある。
私が気付いたのは、ほんの2、3点言葉の使い方で間違いがあったくらいだ(誤植なのかもしれない)。
批判している人は何冊か読むべきだと思う。
すべてではないにしても、この人の述べること、いくつかは納得できる点があるはずだ。
決して無茶苦茶なことを書いている人ではない。

これだけの量を書ききり、読ませる筆力はやはりさすがだと思う。
ネットとかだと「芥川賞受賞作は、編集者が直したものでこの人の文章はひどい」みたいな
知ったようなことを書いているのを見るがまるっきり的外れだ。

ずっと書き続けてきた人ならではの文章の力は、間違いなくある。
思想的なことに共感するかは別として、読んでみてよかったと思う。
納得することもあり、知らないことも知ることもできた。
色々と都合の悪い部分で語っていないこともあるのだろうが、それを踏まえても読むべきものはあった。


また半年ぐらいしたら、もうすこし軽いのを読んでみたい。
というか、しばらくは読むのは遠慮したい、という感じか。
石原慎太郎節で満腹です。
国家なる幻影―わが政治への反回想