見て読んで聴いて書く

映像、書物、音楽などについての感想

ロバート・ジョン・ゴドフリー「フォール・オブ・ハイペリオン」

「もし、この世に“ラファエル前派の音楽”というものがあったなら、この作品は限りなくそれに近い――と評された壮大な音楽神話、長き封印の時を終え再び降臨」

復刻盤CDのオビにはこんな文字が書かれている。

ラファエル前派とは、イギリスの19世紀ヴィクトリア朝に活躍した画家グループのこと。
ミレイやロセッティ、エドワード・バーンズらが有名。
19世紀末の象徴主義の先駆的なものなどとみなされているようだ。

↓こんな絵です。
ラファエル前派―ヴィクトリア時代の幻視者たち (「知の再発見」双書)J.W. Waterhouseロセッティ―ラファエル前派を超えてウォーターハウス *シャーロットの乙女 【ポスター+フレーム】ブラック61 x 91.5 cm
見た目からすると、ちょっと神秘的で幻想的な風情のある絵ということになるのだろうか。

ミレイによる流されるオフィーリアの絵が有名だと思う。
大昔、何かのアルバムのジャケットに使われていた。
この絵の写真を初めて見たのは、確かユーロ・ロック・マガジンと称していた時期のフールズ・メイトの誌面でだったような気がする。

ちょっと気恥ずかしくなるようなナルシスティックな絵と私には感じられる。
だが実は結構、この類の絵は好きだったりする。
クノップフとかベックリンなどの象徴派の絵も好きだ。
↓こんな絵です。


ロバート・ジョン・ゴドフリーによるこのアルバムに戻る。
誰が評したのかは私は知らないが、彼の音楽が“ラファエル前派の音楽”とは思えない。
というか、私の感覚ではかなり違う。

ゴドフリーはイギリスのシンフォニック・グループ、エニドの中心メンバーで、エニドはこんなジャケットのアルバムを出している。

エアリー・ファエリー・ナンセンス

エアリー・ファエリー・ナンセンス

おそらくこのジャケットのイメージがあってこの帯の文章が書かれたのではないだろうか。

かつてプログレは色々聴いたが、エニドというグループ、私はどうも受け付けることができなかった。
閉じた世界での自己陶酔的な気色悪さとでもいうのだろうか……
どうもダメだった。

年月も経たので、エニドはダメだったが、ゴドフリーに再び挑戦してみようとふと思って聴いてみたのだ。

聴いた印象は一言でいって珍品。
相当に変わったアルバムである。
これをロックといっていいのかどうかもわからない。
まあ、ポピュラーミュージックとしてもユニークであることは間違いない。

1回聴いたときは、あまりの自己陶酔的な大げさな世界に辟易した。
やはり体に合わない音楽という感じだった。
しかもちょっと信じられないほど音が悪い。
現在ならブートレグでももっと音のいいものがある。

実はこのアルバム、'70年代にジェネシスやヴァンダー・グラフ・ジェネレーターといったイギリスのプログレバンドを扱っていたカリスマレーベルから出ていたのだが、マスターテープが消失しているそうだ。
そのため今回のCDは前回に出たCDを音源としているとライナーに書いてある。
聴くと相当にこもったモコモコした音だ。
時代錯誤とも言える大げさな曲をモワーッとした音で聴くのだからちょっと耐えられない感じだった。

と、思っていたのだが、我慢して時々iPodで聴くようにしていると、印象が変わってきた。
やはり気色悪いのだが、それがツボにはまったというのだろうか、珍品としておいしくいただけるようになってきた。
曲自体は練られているし、クラシックの素養はある人なので、楽器のアンサンブルとかも面白く聴くほどに楽しめるようなってきた。
ここまで音世界が自己完結しているとそれはそれで面白いのではないか、と思えるようになった。

ただ、音も非常に悪いし、あまりに癖のある音楽なので、これを楽しめる人は少ないと思う。
しかもこれを楽しめる感性はあんまり自慢できるものではないような気もする……
ほんと変なアルバムです。

ただ、広い世の中にはエニドのファンもいるし、そういう人たちにとってはたまらないアルバムなのかもしれない。

万一、エニド好きの人がこの文を読んで気を悪くしたら、すみません。
あくまでもこれは個人的な印象なのでお許しください。

フォール・オブ・ハイペリオン

フォール・オブ・ハイペリオン

  • アーティスト: ロバート・ジョン・ゴドフリー
  • 出版社/メーカー: WHDエンタテインメント
  • 発売日: 2006/12/20
  • メディア: CD
  • 購入: 1人 クリック: 3回
  • この商品を含むブログを見る