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想田和弘「なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか」

なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか (講談社現代新書)

なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか (講談社現代新書)

映画は劇場で見なければならない、と思うほどのシネフィル的な映画好きではない。

今まで見た映画のほとんどはビデオで見たもので、
アテネフランセとかでの特殊上映や特別な映画祭に行ってまでして映画を見たことはない。

ドキュメンタリー映画はそういうこともあり、
小川伸介、フレデリック・ワイズマンといった(最近まで)ビデオの出回っていなかった作家の作品は全く見ていなかった。
というか、あまり存在も意識していなかった。

実はこの想田和弘という映画作家も週刊文春山崎努の「私の読書日記」で存在を知ったのだ。
この映画作家の、型にはめてドキュメンタリーを製作することを嫌い、ある種流れるままに着地点も定めずに製作を進めていく過程が非常に興味深く思えた。山崎はこの姿勢を“どんぶらこ”という言い回しで表現していた。

ということで
彼の映画はまだ一本も見ていたないのだがこの本を読んでみた。

非常に面白い。
ドキュメンタリー映画「PEACE」の製作過程を解説しながら、“ドキュメンタリー映画論”を展開する趣向となっている。

以下、目次

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プロローグ
第1章 撮る者と撮られる者
映画祭からの短編依頼/平和な国で育った僕に資格があるのか/テーマ主義の罠/「牛窓ばあちゃん危篤」の知らせ/牛窓ばあちゃんの映画/暴力装置としてのドキュメンタリー/タブーとドキュメンタリー/撮ることを正当化する条件/プロジェクトの行方/義父と喫茶去号と猫/猫社会についての短編/牛窓ばあちゃんの死

第2章 「台本」と「分かりやすさ」を捨てて 観察映画とは何だろう(基礎編)
源流はダイレクトシネマ/同時録音の技術が生んだ/現代のドキュメンタリー・ブーム/デジタル革命とドキュメンタリー/圧倒的に低いコスト/デジタルビデオ革命が可能にした「観察映画」/「オブザベーショナル(観察的な)」/10の具体的方法論/アンチ・テレビの方法論/台本至上主義/9・11の取材現場で/「こういうシーンが欲しいんですけどねえ」/テーマは後から発見される/分かりやすさ至上主義/視聴者アンケート/「ナレーションと音楽がない!」/ワイズマン映画が教えてくれること/観客を信頼する/実験的試みとしての『選挙』/映像とは多義的なもの/ガイドのない旅/ショットの長さと多義性

第3章 ドキュメンタリーの面白さ 観察映画とは何だろう(発展編)
「客観的真実」を描かない/主観の産物/無作為の作為と偶然性の芸術/マース・カニングハムから学ぶこと/偶然とリスク/人生も偶然と賭けからできている/先手を取る/観察映画と報道の違い/追体験してもらいたい/ドキュメンタリーとフィクション/『ブレア・ウィッチ・ブロジェクト』が教えること/虚と実の間/悪党? 正義の味方?/諸刃の剣/善悪二元論を超えて/グレーの濃淡から見えてくるもの/観察すると自分も変わる

第4章 一期一会のドキュメンタリー
猫から義父へ/福祉有償運送/植月さんとの会話/“差別用語”と差別意識/映像と言葉/猫社会と人間社会の平和/強い者が弱い者に譲る/長くなるかもしれない/著作権はインディーな作家の生命線/橋本さんとの出会い/橋本さんに惹かれる/「平和と共存」と橋本さん/テーマを捨てる/雑念克服の鍵は「観察」にあり/「いま」に意識を降ろすということ/診察室で/橋本さんの一瞥/普通は排除される「カメラ目線」/一瞥を残す/インタビューと会話/撮影者の“声”/撮影者の存在によってあぶり出されるもの/生身の人間/「やわらかい部分」をすくい取る/橋本さんの戦争体験/カー・ラジオから流れる演説/セレンディピティを呼び込む装置/唯一無二の時間をとらえるために

第5章 映画が連れていってくれる場所
映画の編集とは何か/編集の手順/「切る」と「つなぐ」/なんで編集するの?/エッセンスを抽出する/答えは素材にある/編集を通して発見する/どういう観客を想定するか/『PEACE』の名付け親/オープニング作品に選ばれた/バジュでの集中豪雨/初めての上映/世界の映画祭へ/「映画が売れる」ということ/東日本大震災の衝撃/映画を作る意味/香港国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞

エピローグ

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この目次部分を書き写しながら、内容を思い起こした。
非常に示唆に富んだ面白いコメントが多いので、忘れることがないように、
後でメモを書き入れて更新したい。