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小山宙哉「宇宙兄弟」5〜15巻

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http://d.hatena.ne.jp/allenda48/20111128/1322462089
からの続き。
相変わらず気分よく読み進めることのできる漫画だと感心。

嫌な奴、卑劣な人間は登場せず、暴力もない世界が展開。
宇宙飛行士選抜試験の際の溝口、訓練教官のビンス、六太がヘディングしたかつての上司など、不穏なものを感じさせるキャラクターも登場するのだが、やはり作者の資質なのだろうか、いい人になってしまう。
とはいえ非常に面白い。嫌な奴が登場すれば話が面白くなるというわけではないということを証明してくれる漫画だ。

その理由は、登場するそれぞれのキャラクターが非常に魅力的だからなのだろう。
それぞれのキャラクターが生き生きと個性的に描かれ、
それぞれが背負っている事情をしっかりと描き、
その事情ゆえに、その目指しているものが読者にはっきり伝わるように描かれている。
そして目的に向かう際の障害との戦いをしっかり描いているから面白い。
そんな風に私は思っている。

そんな中、ここまで読んでいて気になるのが南波日々人のキャラクターだった。
ほかの登場人物と違い、あまりにも超然としているため日々人が主人公となるエピソードにはあまり感情移入ができなかった。
日々人の日本人初となる月面着陸はこの漫画では大きなトピックとなる部分だと思うのだが、なんかあっさりしていた感が。

と、思っていたら日々人のパニック障害で、彼の宇宙飛行士としての前途が閉ざされつつある状況になり、さらにロシアへの“治療”とその中断という初めての日々人の前に大きな障害が生まれた。今後の展開はおおよそ予想はつくとはいえ、どうそれを語っていくのか、読み進んでくいことが楽しみになってきた。

ほか、印象深いシーンは多かったが、個人的にはデニールと六太とのジェットパイロット訓練にハッとするようなシークエンスがあった。

実は操縦技術については抜きん出たものを習得しながらも、今ひとつ自分のパイロットとしての成長に自信がもてない六太は、もやもやとした思いを抱え、ハンモックに乗ったデニールと会話をする。
飛行機のパイロットであるデニールは、六太にワシは一流の宇宙飛行士になる方法など知らんが、一流のパイロットになる方法なら教えることができる、やるとこまでやって何か見つけろよ、と語る。
その後、ジェット機デニールと飛行訓練をしているシーンに切り替わる。
六太は、飛行訓練が終了して宇宙飛行士として認定された後も、ときどき休みの日に来るから技を教えてくれよとデニールに話す。
それに対しての会話は以下の通り。
絵は人物の顔と、下界と空を背景に飛行機の飛ぶカットが交差する形で進む。()内が絵。

デニール(デニールの横顔と飛行機の飛ぶ絵を交互に)「ウハハッ 随分気の早い話だが」
「いい心構えだ」「しかし…悪いがムッタ」「その約束はできん」
六太(六太のさえない表情)「……」
デニール(デニールの横顔と飛行機の飛ぶ絵を交互に)「今回、担当する教え子が」「宇宙飛行士に認定されたら」
デニール(前方を見つめる横顔のアップ)「ワシは引退すると決めとった」「お前が最後の生徒だムッタ」
六太(バックが黒で六太のハッとした表情を正面から)
六太(上を向いて旋回し始めた飛行機の先端)「なんだか…」「この瞬間から私は―」
六太(雲の切れ間から見える下界の世界)「窓の外の世界を」「鮮明に見れるようになった」
六太(六太が上方を見上げている)「上を見上げればそこには」「地球があり」
六太(六太とデニールが乗っている飛行機の前半部分の外観)「下の方には」「宇宙が広がっていた」

“泣かせ”のシーンもいいが、この何気ないシーンに私はひどく心を打たれた。
“弟子”が一人立ちするシーンをサラっと鮮やかに描いたシーンだと思う。

ちょっと残念だったのは、ビンスとピコの少年時代のエピソード。
シチュエーションがNASAの技術者ホーマー・H・ヒッカムJrの少年時代を基に映画化した「遠い空の向こうに」(ジョー・ジョンストン監督)にあまりに類似しすぎていたので、違ったエピソードにしてほしかった。映画はいい作品だった。それもあって残念。