北沢夏音「Get back,SUB! あるリトル・マガジンの魂」
- 作者: 北沢夏音
- 出版社/メーカー: 本の雑誌社
- 発売日: 2011/10/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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この本はその「SUB」の発行人・小島素治氏のその後の足跡を追った本。
「クイック・ジャパン」に連載されていたものを修正・加筆したものだという。
私自身はこの雑誌のことも小島氏のことも知らなかった。
私よりは前の世代の雑誌であり、また嗜好的にも違うところもあったからだと思う。
文春の書評で知り、ちょっと興味を持ったので読んでみた。
500ページを超えるものなので、内容次第では少し飛ばして読もうと思っていたのだが、結局ほんの少し読み飛ばしただけで読了した。
ボリュームはあったが割に読みやすかった。
「SUB」はわずか6号までしか刊行されず、大手取次も通していなかったようだ。部数も多くて数万部程度。
そんなわけで一般的な知名度は低い雑誌ではあるが、当時の日本のユース・カルチャーの状況を解説しつつ、著者が「SUB」と出合ったときの衝撃を瑞々しく書いていることで、「SUB」がいかに先鋭的な雑誌であるかが若い読者にも伝わるようになっている。
そしてその発行人にである小島氏が現在拘置所にいると書き、「そんな雑誌を作っていた人物が何の犯罪を?」とミステリーのように読者の興味をそそる構成に仕上げている。
著者は、拘置所から病院に移動した小島氏を訪ねるが、氏は1ヶ月後に死去する。
その後著者は、さまざまな人に取材、氏の半生を追いながら長い“心の旅”をする。
この本は、その旅の記録である。センチメンタルな旅といってもいいかもしれない。
著者の北沢夏音という人は、プロフィールを見ると大学の新聞学科というところを出て、雑誌の「Bar-f-Out」を創刊してその後はフリーライターになったと書いてある。
この「Bar-f-Out」と現在ある雑誌の「BARFOUT!」が関係あるのか、私は知らない。
著者はグラフィックやエディトリアル・デザインに凝った雑誌に興味があるようだ。
そのあたり、私とは違う。
なので、著者が熱意を込めて語っている部分であまりピンとこないこともあった。
ちなみに私は雑誌、本は好きだが、マガジンハウスの雑誌には強い思い入れはない。
ページ数もある本なので、さまざまなことが書いてある。
で、私なりに興味深かった点、感想メモを以下に書く。
この本の場合、目次を見ても構成はさっぱりわからないので、目次の書き写しは省く。
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◆“センスの良さ”を持ちながら“名を成すことなく”消えていった小島氏に対して著者は、非常に強い思い入れを抱き、それを前面に出して文を書き進めている。
そのあたりで感傷的すぎ、思い入れ強すぎだよ、と感じることもあったが、それは不快なものではなかった。
また当時の社会的状況、出版、広告の状況をある程度俯瞰して解説した上での“思い入れ”ではあったので、それなりの客観性は保たれていると、私は思った。
思い入れはあえて出したものだろうし、それがこの本の魅力のひとつにはなっていると思う。
◆ここで作者が小島素治という人物の足跡をたどることで試みていることの一つは、'70年から'90年ごろに至るまでの“日本の雑誌”の文化的、ビジネス的変遷を追うことだったように思えた。
ここでとりあげられる“雑誌”とは講談社、集英社、小学館といった大手の出版社が出す既存の雑誌ではなく、グラフィック、デザインにも凝った、そして“広告”というものに注目した新しく“洒落た雑誌”のことである。
ということで、この本には小島氏とあまり交流はなかったが、平凡出版→マガジンハウスに関係した人物が多数登場する。
ただ、ここで触れている、広告と雑誌の関係についてはもっと突っ込んでほしかった。。
広告を出す、記事広告をつくることなどが“雑誌の魂”を売ることにつながる、という指摘に関しては、突っ込み不足で消化不良のまま終わった感があった。
雑誌の広告の問題点についてはもう少し書いてほしかった。
◆マガジンハウスにいた椎根和という元有名編集者と著者の会話がなかなかスリリングだった。
椎根氏と小島氏は、編集者して志向するところに近いものがあったようで、一度だけ会ったが似たもの同士で反発しあって終わったそうだ。
- 作者: 椎根和
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小島氏の死後、氏の代弁者となって椎根氏と対峙する著者の言葉は、椎根氏に対して挑発的であり、2人のやり取りは、私にとってこの本で一番の読みどころだった。
著者は椎根氏の前に「SUB」を並べ、小島氏はこんなこともすでにやっていたんですよと語る。
それに対し、椎根氏は小島氏が誌面でやったことは、僕は数年前にすでにやっている、と強気の返答。
それに対して、著者はこう語る。
「ニュースとしてはパンチ(平凡パンチ)のほうが早いですね。リアルタイムですから。『SUB』が見せたのは切り口というか、70年代初頭の時点で、60年代という暴風が吹き荒れた時代に提示されたまま飛び散ってしまった重要なテーマを、いち早く“再編集”して見せたところに意義があったんだと思うんです」(P182)
それに対し、椎根氏は、
「エディトリアルということの妙」
と答えるが、最後は「一人の何者でもない普通の人間が、若干30歳前後の青年が、個人であれだけの雑誌を出したと言うのは、初めてだろうね。若者が自分の作りたい雑誌を創った第1号。彼にはその栄誉があるんだから」(P182)と語る。
そして、著者はこの章をこう締める。
「それは、世間からほとんど忘れられたまま亡くなった小島氏に、かつて“ライヴァル”と認めた男が贈る花束、真の『再評価』に違いなかった」(P182)
著者の小島氏に対する強い思い入れを感じる章だった。
◆それぞれの人物が登場するごとに、その人の名前に長々と紹介する文章が付く。
こんな具合である。
・1969年6月(7月創刊号)から72年5月(6月号)にかけて、合計36号を発行、タウン誌の元祖として今も語り継がれる「伝説」の雑誌「新宿プレイマップ」の元編集長。かつての小島氏の盟友でもあった本間健彦を、氏が主催する編集工房「街から舎」の編集室に訪ねた(P74)
大学で新聞学科とかを出るとこういう風に書くようになるのだろうか。「新宿プレイマップ」の刊行されていた時期から何号出していたかまで書いているのである。著者は資料的な意味合いでも価値のあるものをと考えて書いていたのかもしれない。しかし、単純に読むだけの私としては、そこまでするのか? という感もあった。
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思いついたことを書くときりがないので、このくらいにしておく。
後で、特に書くべきことがあったと気付いたら更新することにする。
私の読んだ総論的な感想としてはこんな感じだ。
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「雑誌というものが、若者に対して、世界の見方を変えるほどの影響を与えることができた時代があった」
そして著者にとって「SUB」という雑誌がそういう存在だった。
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そのことは伝わる内容になっている。
そういうことに興味のある人なら、この本は読む価値はあると思う。
今の私は若者ではないので、そういう雑誌がこの世にまだ存在しているかどうかについて細かいことはわからない。
ある程度のものならあると思う。
ただ、当時ほどの強度をもって読者に迫るものは、もうないと思う。
それは現在がネット社会でさまざな情報を比較的容易に得ることができる時代だからだ。
ただ、椎根氏の語った「エディトリアルの妙」のある雑誌は、編集者の“センス”によるところが大きいので、それなりの影響力のあるものは存在していると思われる。
ここ数年で私が、雑誌について書かれた書籍で読んで印象深かったものとしては「日本ロック雑誌クロニクル」「ペヨトル興亡史―ボクが出版をやめたわけ」がある。あと「村崎百郎の本」も雑誌ライターに関する本なので興味深く読んだ。以前、アマゾンにレビューを書きました。
この本を読んで知ったマガジンハウス関連の単行本も読んでみたいと思った。
こんな感じだと10年くらいしたら、“「FOOL'S MATE」の北村昌士の足跡を追う”なんて本も好事家によって書かれてしまうのかもしれない。
- 作者: 篠原章
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