スティーヴン・スピルバーグ監督、馬が主演の映画「戦火の馬」
平日8時半からの上映で見た。ガラガラだった。
すごくよかった。
序盤はゆっくりと物語を進め、徐々に盛り上げていくスケール感のあるストーリー展開が素晴らしかった。
158分と長めなのだが、ゆったりとしたテンポに乗って、深くドラマを堪能した気分になれた。
2000年以降のハリウッド大作の多くは、「まず冒頭の10分で客の心をつかめ」とばかりに、インパクトのあるシーン、印象的な事件をもってくることが多い。
だが、この映画は非常にゆるい出だし。
イギリスの農村地帯を舞台に、小作人一家の主人が馬のセリで地主と張り合って、サラブレッドの美しい馬を農耕作業用に大金をはたいて競り落とすことから物語は始まる。
映像はまるで'50〜'60年代のカラー映画のテイスト。内容はまったく違うが、「サウンド・オブ・ミュージック」とか昔のディズニーの自然記録映画のような映像だった。
ジョン・フォードのカラー映画とか。
遠景で建物や自然の景色のなかに人間がいるシーンだと、解像度が足らずに人間の顔が判別できないような映像もある。
それがまた昔っぽい。
撮影監督は、いつもようにヤヌス・カミンスキー。
映像についてはどう意識したのか事情は知らない。
ただ「タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密」が最新の技術を駆使したものだったので、あえて今回は、古い映画のようなノスタルジックな映像にしたとも思える。
ただ、そういった映像は初めの農村舞台の映像についてであって、舞台が変わると撮影手法、映像の感触も変わってくる。
スピルバーグの映像手法の語り口の多様さを知ることのできる映画でもあった。
戦場のシーンでは「プライベート・ライアン」以降培ってきた迫力のあるシーンが展開。
さらにこの作品では、そこに馬を絡めた見たことのないようなスペクタクルな見せ場も作り上げている。
この農村シーンと戦場シーンの映像の落差はすごいものがある。
ラストシーンは“夕日だ!”という極端に強調した映像になるが、私にその意図はわからなかった。
このように、古き時代の映像へのオマージュとか取られそうな映像もあったが、聞くところによるとスピルバーグはそういった意図は否定しているそうだ。
で、感想。
タイトル通りに馬が主役の映画だった。
戦火を駆け抜けた馬の話である。
馬を買い取る小作人の息子と馬の絆が主軸にはなっている。
だが、実はドラマに出ずっぱりなのは、劇中でジョーイと名づけられた馬。
この馬の“演技”がすばらしい。
言葉をしゃべることはもちろんない。
そうなのだが、ドラマの内容に即して表現力豊かなすばらしい動きをする。
VFXなどさまざなま特殊効果によるものもあるとは思うが、この馬が一番の名演を見せる。
物語のメインは、この馬が英軍に買われ、戦地に赴いてから、さまざまな“飼い主”を経て、最後に元の小作人の息子の元に返るという話だ。
そう考えると若干、農村地帯の序盤は長い。
“第一次世界大戦”という非合理で過酷な状況下、飼い主となったイギリス兵、ドイツ兵、フランスの民間人の家族など、そこに生きるさまざまな人々の暮らし、悲嘆、ささやかな喜びなどが馬との関わりを通して、いくつかの逸話のように語られていく。
過度にそれぞれの事情をこと細かく描かずに、素描のように連ねたことがよかったのでないかと思う。
馬はしゃべることはないが、ある種、それぞれの説話をつないで転がしていく“狂言回し”的な存在となっている。
そして、それぞれの逸話を通して浮かび上がってくるものは“運命”というものではないか、などと思った。
ちょっとうまくいえないのだが。
ドイツ軍と英軍が対峙する中間地帯で行われる“馬の救助”シーンもよかったが、
個人的にはフランスの農家の老人とその孫の少女の逸話に泣かされた。
脚本のリー・ホールは「リトル・ダンサー」を書いた人。イギリス人だ。
もう1人のリチャード・カーティスは「フォー・ウェディング」とかを書いた人で、これもイギリス人だった。
また、思うことあれば更新する。