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橋下徹、堺屋太一「体制維新−大阪都」

体制維新――大阪都 (文春新書)

体制維新――大阪都 (文春新書)

堺屋太一による「はじめに」と、橋本徹×堺屋の対談、そして橋本による本論原稿などからなる新書。
この本で終始一貫して述べられているのは「体制を変革する」ことである。
それは揺るぎない調子で明快に、何度も繰り返して主張される。

目次は以下のとおり。

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はじめに 堺屋太一

第一章 大阪の衰退、日本の衰退 堺屋太一
▼第三の敗戦−20年間の衰退の末に成長率は主要国で最低
▼成長率は主要国で最低
政権交代では良くならない
▼よいことも悪いことも大阪からはじまる

第二章 なぜ「大阪都」が必要か 対談①橋本徹×堺屋太一
▼国の形の大変革
▼日本維新のはじまり
▼世界文明の変化に合わせて
▼公務員もクビにできる制度に

第三章 改革と権力闘争 都構想① 橋本徹
財政再建−破綻寸前からのスタート
▼「大阪問題」への取り組み
▼大阪の学力を向上させる
▼直轄事業負担金は「ぼったくり」
地域政党大阪維新の会
▼平松大阪市長とはなぜ対立するのか

第四章 「独裁」マネジメントの実装 都構想② 橋本徹
▼国家単位の成長戦略は限界
▼統治機構の変革
▼「橋下は独裁者」か?
▼政治は直感、勘、府民感覚
▼公立でも私立でも選べる環境に
▼教育現場の「治外法権化」を許すな
第五章 「鉄のトライアングル」を打ち破れ 都構想③ 橋本徹
▼都市間競争に打ち勝つために
▼驚天動地の行政改革
▼強い広域自治体とやさいし基礎自治体
▼大阪版鉄のトライアングル
▼露骨な地下鉄キャンペーン
大阪市民の借金はべら棒に高い

第六章 大阪から日本を変えよう 対談② 橋下徹×堺屋太一
▼“現代版”版籍奉還と廃藩置県
▼区長を選べない悲劇
▼府と市は「不幸せ」な関係
道州制は可能か

おわりに

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実はこの本で主張していることのアウトラインは、「はじめに」と第一章、第二章、第六章を読めばあらかた分かるものとなっている。
それ以外の、橋下の書いた「都構想①〜③」の文章はそれを踏まえた上で、府知事(当時)としての今までの自分の行動と成果、今後について語った“具体例”だ。

“体制維新”についてのアウトラインだが、橋下と堺屋の見解はおおむね一致しているようだ。2人の見解の違いは、この本では触れられていない。
総論的な解説は、堺屋の言葉が多いので彼の言葉を引く。
「昭和の間、1980年代までは、日本はうまく行っていました。経済は高度成長し、失業者は少なく、財政赤字は僅かでした。
ところが、90年代に入ってからは、経済成長率は主要国中では最低、物価も賃金も下がるデフレ、そして財政は莫大な赤字です。その原因の一つは、世界文明の根元が変わったことです。1980年代のなかばぐらいから、先進国を中心に世界の文明は大きく変わりました。産業革命以来の近代工業化社会は、モノをたくさん得られたら人間は幸せだ、という思想に基づいていました。モノをたくさん作るためには、規格大量生産をすればいい。その規格大量生産を実現するために、特に戦後の日本は最大の努力をしてきたわけです。
官僚主導の体制をつくり、東京一極集中の地域構造にし、学校では没個性均質教育を行う。規格大量生産に適した労働者になるような人材を育てる。地域構造、学校教育と産業政策が一体となつて、推進したのです」(P37-P38)

堺屋は、’80年代半ばからモノの豊かさが量で測れないとする時代となり、日本の今までの体制が“世界の文明の変化”からずれてきたと語る。そして日本の得意とした規格大量生産技術について「中国や東南アジアの国々も規格大量生産の技術が著しく向上し、日本は追いつかれるようになってきたんです」(P39)と指摘する。
そこで明治以来の官僚主導の中央集権のシステムの抜本的な改革の必要性を堺屋は唱える。

「経済社会の大きな流れを変えるのには、人事(政権交代)や仕方(政策変更)では実現できない。本当に経済の基本と社会の本質を変えるのには、担当する人を入れ替えたり(政権交代)、予算の組替や執行を改めたり(政策転換)するだけでは絶対にできません。その基にある仕組み=体制(システム)を変えなければいけないのです」(P6)

“〜をします”という政策や“誰が総理になる”ではもはや、この状況は打開できない。その基幹にあるシステム、明治以来の行政機構を変えるということを訴えているわけである。
橋本はこの主張を受け、行政機構の変革を、コンピューターのOSを変えることになぞらえて語っている。
やり方や人を変えるのではなく、それを行う基盤となる“システム”の変革ということである。

そしてその先例として、“悪しき例”となっている大阪で、体制変革の実験を試み、そこでの成果をもって日本全体の変革となりえるものとアピールしたい、と語っている本、ということだ。
「大阪と構想は、ある意味で実験です。現在の大阪の行政機構、システムを大阪都という新しいシステムにつくり変える。僕はうまくいくと思ってますが、結果はやってみなければわからないところもあるでしょう。でも、今のシステムでは時代のニーズに合わないことがはっきりしている以上は、現状維持ではただただ衰退していくのみ。どうしても今のシステムをかえないといけない。大阪のいままでの行政機構を抜本的に改革して、うまくいったやん、というところを国民に見せれば、今度は日本全体でシステムを変えていかなあかん、という認識が広がると思うのです。〜まず大阪で新しい行政機構をつくろうとしてるんです」(P50 橋下)

もろもろ興味深いことはページに付箋をつけ、メモをした。
だが、そのポイントを列挙、自分なりに検証するのは時間もかかるので、ここでは省く。

まずは以上を感想メモとする。
おおむね予想した通りの内容だが、それなりの分量で書かれているものでもあり、“大阪都構想”を皮切りに、日本のシステム変革を図る主張の書として、興味深く読めた。
ここで書かれていることは首尾一貫しており、ブレはない。

堺屋は「はじめに」の文をこう締めている。
「だから、大阪以外の人、大阪と関わりのない人々も、大阪都構想を性格に理解していただきたい、と考えるのです」(P27 堺屋)
私も、今後の大阪がどうなるかはチェックしていきたいと思う。

橋本徹という人は諸々の事象のつらなりを抽象化して考えることのできる人だと思った。
抽象化というより、具体的なイメージの総体として捉える勘がある、といったほうがいいのかもしれない。
口先の達者な弁護士というイメージでとらえるべき人ではない。

この人は戦術だけの人ではない。むしろ根底の“理念”ががっちりできているので、戦術については臨機応変に使える人と思った。

「話し合えるだけ議論はする。それでも結論がでないときにどうするか」
「民主主義における権力闘争はどうあるべきか」
それに対する答えもいさぎよいものだと思った。


1冊の本を読めば、著者の頭のつくりはおおむねイメージできる。
(政治家の場合、本人が書いてないことも多いが、ライターが書いたものであってもそれなりに)
著名人の頭のつくりが知りたければ、その人の著書を読むのが一番だ。

そういう意味で、話題の人物でもあり、読みやすい文章なのでより多くの人が読むべきものだと思う。

読まないと、良くも悪くも橋下については色々なバイアスの掛かった情報が流れているので、誤解すると思う。