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菊地成孔、大谷能生「東京大学のアルバート・アイラー 東大ジャズ講義録・キーワード編」

'04年に1年間、東京大学で行われた菊地成孔大谷能生による“ジャズ講義”の模様を文章化したもの。
これは前期の「歴史編」に続く後期「キーワード編」。

「歴史編」を読んだので続けて読むことにした。

以下、簡単な感想メモ。

「歴史編」は非常に明快なジャズ史だったのだが、私は読んでいて違和感があった。

菊地成孔大谷能生の両筆者はとても賢い人なのだろう。
そして多分、人から「馬鹿」と言われることをとてつもない屈辱と思う人だと思った。

それゆえに、“ジャズ史”を俯瞰した際に“ほころび”が見えて揚げ足を取られないように、前もってアリバイも準備しつつ恣意的に論を展開した面があったように思えた。
偽史”という言葉を使って、「俺はもうそんなこと承知の上では話してんの」みたいな周到さだ。

そして読んでいて感じられたのが、人を小ばかにしたようなしゃべり口。
書籍用に書き直したそうだが、それでこういうものが醸しだされているのだから始末がわるい。

もっともと思えることは多かったが、どうも素直に読めない内容だった。
↓以下が「歴史編」の感想メモ。
http://d.hatena.ne.jp/allenda48/20120331/1333196219

ということで、あまり気乗りせずに読んだ「キーワード編」だったが、読んでみると印象は「歴史編」と大違いだった。
こちらは非常によかった。
キーワードを決め範囲をせばめた上での講義にしたのがよかったのかもしれない。示唆に富む言葉が多く、非常に興味深く読めた。
「キーワード編」は4章構成。
「ブルース」「ダンス」「即興」「カウンター/ポスト・バークリー」の各キーワードについて、まずは概論講義、続いてゲストを招いての講義となっている。
「歴史編」はどうにも密室的、閉鎖的だった印象がある。

キーワード編はゲストを招いたことがよかったのかもしれない。
賢い講師2人だけだと、まとまりすぎて閉鎖的で静的な“お説教”に終わってしまう印象があったが、後編では外部からの“風”が吹いたことでダイナミックで広がりのあるものになっていた。

そして、ゲストとのやりとりを通して、やっと講師のもっているパーソナリティー、志向性、熱意が伝わってきた。
こういうものが伝わるか伝わらないかは、本を読んでいるとき、私にとっては結構重要なことだ。

特に、「即興」についての大友良英、「カウンター/ポスト・バークリー」での濱瀬元彦の語る言葉には多くの興味深い点と熱意を感じた。
ただ私はロックのブルース・マイナー・ペンタトニック・スケール程度の人なので、濱瀬元彦の講義については、私の理解をはるかに超えているものだった。
正直、雰囲気を読んだ程度のものではあった。

こうして、前・後編を通読してみると、15年以上前の講義ではあるが、現在でも充分に意義のある講義になっていると思う。
前期、後期の講義がうまく補完しあっていることに感心した。

難しそうだが、元本の「憂鬱と官能を教えた学校」も一応読んで、どんなことが書いてあるか確認することにする。

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追記。

大友良英が対談でジム・ホール渡辺香津美から影響を受けていたと語ったことについて。(P277)
なんとなく気になっていたので、家にあったギターの本を見たら、リットーミュージックから出ていた渡辺香津美著による「JAZZ GUITAR IMPROVISATION」という本を発見した。
'80年ごろは一般の人も読めるようなこの類の本はなかなかなかったと記憶する。渡辺はほかにもコード進行編とかも出していたはず。
大友も明大の学生であり、音楽を専門に学んでいた人ではなかったので、もしかしたらこの本を読んでいたのかもしれない。
この本、ジム・ホール&ロン・カーターの『アローン・トゥゲザー』から「四月の思い出」を取り上げてアナライズしていた。
私もこの部分、熱心に読みました。