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椎根和「“オーラな人々”」

オーラな人々

オーラな人々

椎根和という元編集者が、'60〜'70年代に活躍した著名人たちのことを書いた本。
平凡パンチ三島由紀夫」に続けて読んだ。
平凡パンチの三島由紀夫 (新潮文庫)

平凡パンチの三島由紀夫 (新潮文庫)


「平凡パンチの三島由紀夫」を読んだ感想メモ

今回の本は、サブ・タイトルが時代がかっている。

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三島由紀夫、美和明宏、植草甚一寺山修司ブルース・リーテレサ・テン
あなたが愛したスーパースターと、いま、再び、ふたりっきりの時を。

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“ふたりっきりの時を”という言葉は意味不明だが、時代を感じさせるフレーズではある。

この本には著者が交流を持っていた人から、一度も会ったことのない人まで登場する。
登場するのはサブ・タイトルにあった人以外では、ボブ・マーリーザ・ビートルズアブドーラ・ザ・ブッチャーアンディ・ウォーホル岡本太郎王貞治スティービー・ワンダーボブ・ディランマーク・ボランニール・ヤング高倉健堀内誠一、ティナ・ラッツ、由利徹ゲルト・ミュラー&ジョージ・ベスト草森紳一

後半になると、ネタ切れなのか、仕事上でのパートナー、直接会ったことのない人の比重が増えてくるのはご愛嬌か。

ANAの機内誌である「翼の王国」に連載されていた「ICON68−79」というタイトルの連載に書籍出版用に加筆修正されたものだそうだ。

平凡パンチ三島由紀夫」を読んだ個人的な感想は、いまひとつピンとこなかったということになるが、この本は人物紹介のコラム集として軽く楽しく読める内容となっていた。

長大な文章でテーマについて掘り下げるよりは、短い文で、ある種表面的、感覚的に事象について書くことのほうがこの人には向いているのかもしれない。

巻頭ページの「(付)三島由紀夫秘蔵写真集」が楽しい。大森駅の北方に今も現存している(と思う)三島邸で本人がくつろいでいる写真が多数掲載されている。
これは著者が撮影するなどしたプライベート写真といえるものだ。篠山紀信が三島邸を撮影した写真より生活感があり、妙な風情を醸しだしている。

三島由紀夫の家 普及版

三島由紀夫の家 普及版

読みどころは「はじめに」とある巻頭の文。
これは面白かった。
“俺はうまいことマスコミに入って、有名人と仲良くなってこんないい思いをしてきたんだぞ”、という話がテンポよく語られる。
書き方によっては嫌味な自慢話と取られかねない内容なのだが、読んだ印象は、植木等主演の映画“無責任”“日本一”シリーズのようだ。
トントン拍子でいい思いをしていく著者が乾いたタッチで描かれ、読んでいて痛快であり、笑える。



色々なエピソードが登場するが、近田春夫が登場するエピソードと高倉健の自宅が火事になったときのエピソードが面白かった。

近田編
原宿で大学生の近田春夫と遊んでいた著者は、明け方に新しくできたクラブに入り、そこで三島由紀夫に居合いを教えたと称するマスターと遭遇。マスターと話をするが、著者と近田の話し方に問題があったそうだ。
「会話はなごやかに進んでいたが、ぼくと近田のものいい、悪意はないのだが、正確に話そうとすると、相手に反感を持たせる話し方に佐藤居合い名人はだんだん怒り始めた。急に、奥の方にいたガタイの大きい用心棒風の男に向かって“オイ、ヤスオカ、カタナ持ってこい、こいつら二人切ってやる!”とどなった。
あわててあの安岡力也が巨体をゆさぶってあらわれた。安岡は日本刀を持ってこなかった。佐藤名人は“オレがとってくる”といって奥の事務所にかけこんだ。安岡はぼくと近田に向かって“悪いことはいいませんから、すぐに逃げてください。ホントウに、居合いのためし切りの材料にされますから……”
近田とぼくはお金も払わずに明るくなった表参道の並木道まで逃げ出した」(P83)

“正確に話そうとすると、相手に反感を持たせる話し方”というのがおかしい。そういう人だったのかという感じだ。
近田春夫と安岡力也はこの時に初めて出会ったのだろうか。

高倉編
高倉健の成城の自宅が火事になったとき、著者は横尾忠則と2人で現場に駆けつけたそうだ。
「横尾さんはすぐ、タクシーを拾い、高倉邸にかけつけた。ぼくも素早く同乗した。(中略)野次馬を阻止する非常線も、横尾さんの新種の映画スターのようなルックスとファッションの威力でなんなく突破した。
健サンは、門のあたりにいた。妻の江利チエミの姿はなかった。横尾さんが健サンに近づいていった。すると健サンはくるりと振り返り、『アッ、横尾さん、おいそがしいのに、こんな所にワザワザ来ていただいて恐縮です。さあ、お茶でも……』といいながら、自ら魔法瓶のコーヒーをマグカップに注ぎ、横尾さんに手渡した。」(P232)
高倉健、すごい人である。
そして、自宅が炎上する中、それを眺めながら高倉健と奇抜な服装の横尾忠則がコーヒーを飲んでいたという絵もすごい。